幸せの欠片

□初恋の君は時空を超えて
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「初恋って言っても、アニス達が期待しているような甘いエピソードとかは無いのよ?」
そう前置きしながら、私は思い出していた。
今から10年前…、まだ6歳の子供だったときに出会ったその人の事を…。
〜10年前・ユリアシティ〜
ガチャ…
出来るだけ音を立てないようにして、私は建物の中に入った。
当時から私は可愛い物が好きで、お祖父様やまわりの人達に内緒でよく家畜庫のブウサギ達と遊んでいたのだ。
ぶひぶひと鼻を鳴らしてすりよってきてくれるのが嬉しくて、毎日のように会いに行っていた。
と言っても、食料の生産が殆ど出来ないユリアシティでは、家畜はとても大切な物だったから、周りに決してバレないように夜にしか会いにいけなかったのだけれど。
でも、そんなある日のこと…。
『ティア、少しいいかね?』
『お祖父様!どうかしたんですか?』
お祖父様が、珍しく私の部屋に来た。
『すまないが、2〜3日留守番を頼めるかな?』
『お留守番?』
『あぁ。』
まだ小さいときだったから、どんな内容だったかは忘れてしまったけど、お祖父様が急用で2〜3日ユリアシティを空けることになったのだ。
多少の寂しさはもちろんあったが、内心、私は喜んだ。
お祖父様の居ない間は、いつもよりたくさんブウサギ達と遊べると思ったからだった。
そして、ユリアロードでお祖父様が出掛けるのを見送ってから、私は急いで家畜庫に飛び込んだ。
いつもならブウサギ達が逃げてしまわないように、入ったらすぐにドアをしっかり閉めて鍵をかけていたんだけど、その日は浮かれていたからつい鍵を閉め忘れてしまって。
ドアを閉めないまま、一番なついてくれていた、ハートの模様のあるブウサギに飛び付いてしまった。
『ぶひぃぃっ!!?』
『きゃあっ!!?』
ブウサギは意外と繊細な生き物だから、いきなり驚かせるような行動を取ってはいけない。
そんなことを思い出したときにはもう遅くて、ハート模様のブウサギはパニックになって小屋から飛び出していってしまった。
『まっ、待って!』
すぐに立ち上がって追いかけようとしたけど、振り落とされたときに足を捻ったらしく走れなかった。
そんな私がもたついている間に、他にも数匹のブウサギが逃げていってしまった。
『ど、どうしよう…!!?』
子供心にも、大変なことをしてしまったのは理解できた。
元々、私と兄さんはユリアシティでは"余所者"として肩身が狭かったのに、こんな大失敗が知れ渡ったら大変なことになる。
そう思うと涙が込み上げてきて、私はしばらくその場で泣いていた。
そんな時だった。
ドーンッと言う音と共に、後ろにあった餌のワラの束の所に何かが降ってきたのだ。
『イッテテテ…ι』
恐る恐る振り返ると、そこには私より10歳くらい年上のお兄さんがいて、私に『どうかしたの?』と聞いてくれたので、事情を話して。
そして、そのお兄さんが探してくれたお陰でブウサギ達を無事に家畜庫に戻すことが出来たのだった。
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「その人が、ティアの初恋の人?」
「えぇ、そうよ。」
そう言って、私はカバンから小さなチーグルのキーホルダーを取り出す。
「これは、その時のお兄さんに貰ったものなの。」
「まぁ…、10年前に頂いたものを今でも大切にしているだなんて、本当に好きだったんでしょうね。」
「(ルークが聞いたら泣くだろうなぁ…ι)で、そのお兄さんはどんな人だったんだい?」
「それが…。」
「どうかしたのですか、ティア?」
イオン様のその問いに、何と答えるべきかわからなかった。
だって、私は…その彼の顔すら覚えていなかったから。
「実は…、顔すら覚えていないの。」
「はぁ!!?何で!!?」
「わからないわ…。それに、少しおかしな点があるの。」
「おかしな点?」
「えぇ。まず、私が彼と出会ったのはユリアシティ。つまり、余所者は一切入ってこられない環境だったはずなの。」
「ですが、ユリアシティはなかなか大きな町でしたよ?一人くらい、会ったことがなかった人も居たのでは…。」
「そうですね。でも、そうだとしても妙なんです。私が彼と会ったのは、後にも先にもその1日だけ。その後は、どんなに探しても、皆に彼について聞いても、何もわからなかったわ…。」
結局、残った手がかりは古ぼけたこのチーグルのキーホルダーだけ。
これだけが、あの出来事を夢じゃないと証明してくれていた。
「なるけど…、確かに不思議な話だな。」
「えぇ、神秘ですわね。」
「結局そのお兄さん何者だったんだろうね?」
結論の無い話と言うのはやはり人の想像力を掻き立てるもので、皆はそのお兄さんについての談義を始めてしまって。
何となく居づらくなった私は、こっそりと自室に戻った。
ベッドに横になって、握りしめていたキーホルダーをもう一度見る。
「あれは…やっぱり夢だったのかしら…。」
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