リヴァエレ本

□叶わぬ 恋をしている 番外編─引き金─ リヴァエレ
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初めは確かに牽制のための契約だった。
エレンが飢えた男たちの慰み者にならないよう、影響力のある上官が盾となる。
適切な距離感を保ち、穏やかに過ごした日々も確かにあったが、次第にどこまでが義務の範囲なのか境界線はあやふやになり、残されたカードでわずかに均衡を保っている。
恋人などとはもちろん呼べず、かといってこの執着を一言で表すのは難しい。

滴る汗を拭いもせずに走りゆく俺は、よほど滑稽に思えた。




叶わぬ恋をしている 番外編―引き金―




小さな物音と争うような声が聞こえ足が止まる。
それまでの性急さが嘘だったかのような足取りで近づくと、扉越しに耳慣れた声が聞こえた。
呼吸を落ち着けるように細く長く息を吐き、ドアノブをゆっくりと回す。

扉を開けるとそこには、ほぼ想定していた通りの光景が広がっていた。
猿轡をかまされ両腕をそれぞれ拘束されたエレンが、5、6人の男たちによって机に押し付けられもがいている。
シャツはまくれ下着もずらされ、薄い背と小さな尻が露わになっていた。
すうっと腹の奥底が冷える気がした。

「…ずいぶんと楽しそうだな。混ぜてもらおうか」
「……ッ!」
「ひっ…!」
それほど大きな声を出したつもりはなかったが、どうやらその場にいた奴全員の耳に届いたようだった。
男たちは言うまでもなく、その下にいるエレンまでもが動きを止め青い顔で凝視している。

ここは4階だ。
廊下側に窓はなく、退路は俺のいる扉しかない。
下手に睨み合いになって時間を浪費する気はなかった。

ゆっくりと奥へ進み退路を空けてやると、思惑通り1人飛び出してきた。
足払いをかませ、倒れたところでそいつの股間をおもいきり踏み潰す。
クソうるせえ悲鳴と、ごりっとかいう気持ちの悪い音を存分に響かせた後、俺はゆっくりと残りの輩を振り返った。

「どうした?続けないのか?…それとも縮み上がって使い物にならなくなったか?」
そう告げてさらに進むと、我先にと逃げ出し始める。
来た順に喉元、膝裏へ回し蹴りをかまし、髪や襟元をつかんで引き倒すと、1人残らず踏み潰してやった。
這う這うの体で全員が部屋から出ていくのを見送った後、エレンに向き直る。
「へ、兵長…お手数をおかけして申し訳ありません」
少し服装は乱れていたが、外傷や無体なことをされた形跡はないようだ。
発見が早かったか、こいつが暴れに暴れたせいか、どうやら未遂で終わったと見える。

「すまなかったな。俺がいなくなったから、探しに出たところをやられたんだろう」
そう言い頬を撫でてやると、青かった顔が一転して緩んだ。
「!いえ、兵長が気をきかせてくださったのに勝手に動いて申し訳ありませんでした!」
姿勢を正し敬礼をするが、その頬はうっすらと染まり、どこかうれしそうにしている。

…おい、エレンよ。
襲われかけた直後だというのに、少し立ち直りが早すぎやしないか。
どうやらこれが初めてではなさそうだと踏んで問い詰めると、やはり何度か経験済みだという。
毎回大事には至らず返り討ちにしていると話すが、そろそろ複数想定の対人格闘術をカリキュラムに加えた方がよさそうだ。

それと、先の処置にも少し後悔した。

「チッ…あいつら…もう少し痛めつけておくべきだったな」
「っ!十分です兵長、見てるこっちが痛くなりましたよっ」
「ギリギリ使いものになる程度には加減したぞ」
「〰〰〰それに、これ以上は問題になります!人手も足りないし、大事な戦力なんですから」
「…ああいう輩が何人集まったところで大した戦力にはならないと思うがな。団の規律も乱れる。医務室に担ぎ込まれるくらいやっておけば、お前に手を出す輩も減るだろう?」

そう伝えるとエレンは何とも言えない表情をした。
なんとなく、ここに留まるのはよくない気がして踵を返す。

「…戻るぞ」
数歩先に進んだところで、先ほどの感触が蘇る。
「チッ。まだ感触が残っていやがる…気持ち悪い」
ああいう輩への処置としては効果的だとは思うが、次からは別の方法にしよう。
そう独りごちただけだったが、これがよくなかったらしい。

「あの、それでしたら……口直しはいかがでしょう」

「…ああ?」
振り返ると、「そういう」雰囲気をまとわりつかせたエレンがいた。


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