リヴァエレ本

□やさしいうた1 リヴァエレ
1ページ/3ページ


「リヴァイさん」
斜め後ろから声がかかり振り返る。
「今日も会えた」

光の加減で金色に見える目を細めて、少し泣きそうな顔で柔らかく笑う。
エレンと名乗る印象的な瞳のそいつは少し不思議な奴だった。

毎週土曜の夜8時。
人気のまばらな、駅裏の公園で。




やさしいうた




「今日も冷えますね。コーヒー買ってきたので、どうぞ」
「悪いな」
外で弾いていると手がかじかんで音が硬くなるから、温かい差し入れはありがたい。
缶を握るとじんわりと指の先まで血が通い始めた。
「さっき弾いてたのは、なんて曲ですか?」
「ただの即興だ」
「…きれいな曲でした」

初めて会ったときは、俺の前に座り込むなり号泣した。
少し落ち着いたかと思えば、「こんなやさしいうたを歌うんですね」とか意味不明なことを言い出す。
15という年の割には大人びた表情をする、穏やかな雰囲気をまとった少年だ。
週に一度、同じ時間にやってきては、少しだけ話して少しだけ曲を聴いて帰っていく。

俺のアコギはほとんど手慰みのようなもので、毎日の追われるような仕事の傍ら、路上で細々と弾いている程度の腕前だ。
週三で弾いているが足を止める奴もそういないし、かたや毎週通ってくる奴なんてこいつくらいのものだ。

誰に聞かせるわけでなく好き勝手弾いていたから、どこがこいつの琴線に触れたんだかさっぱりだが、クソ寒い中かかさず寄ってくる。
俺も、ふた月も過ぎる頃にはこいつが側にいることをなんとなく心地よく感じ、帰った後寂しくなる程にはほだされていた。


いつだったか、初めて会ったときに泣いた理由を聞いたことがある。
「ずっと探していたものを見つけたからですよ」
「ずいぶん前に置いてきぼりにされたのを、思い出したからかな」

前を見てそう答えるエレンは、どこか遠くを見ていた。
俺を通してか、俺のうたう歌を通してかは知らないが、誰かを想って泣いたのだろう。
そんな気がしてそれ以上は聞けなかった。



「リヴァイさん、耳コピできる人ですか?」
その日も思いつくまま弾き語りしていたら、傍らのエレンがそう声をかけた。
「あ?まあ、たまにな」
「これ、歌ってもらえませんか。今度始まるアニメの挿入歌です」
イヤホンをウェットティッシュで拭きつつ渡してくるのを受け取り、耳にかける。
出会って半年近くになるが、エレンからのリクエストは初めてのことだった。

「好きな作品なのか?」
放映前に挿入歌までチェック済みとかよっぽどなんだろう。
少し意外に感じつつそう問えば、さらに予想外の答えが返ってきて固まった。
「俺、作者なんで。この曲は知り合いが作詞しました」


「……は?」
「さすがに楽譜はお渡しできませんが、歌詞なら」
そう言って鞄をあさるエレンを尻目に、俺は慌ててイヤホンを外す。

「おい、ちょっと待て。これ未発表なのか?聞かせていいのか」
「かまいません。たぶん、知り合いもきっと喜ぶんじゃないでしょうか」

「―─題名は?」


金の目をわずかに細めて、そいつは言った。
The Reluctant Heroes。気乗りしない英雄、です。」


次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ