リヴァエレ本

□やさしいうた3 リヴァエレ
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頼りなげに震える肩を引き寄せたのは、エレンをそのままにしておけなかったからだ。
いろいろ抱えてそうなこいつは、大人びて見えてまだ15のガキだった。



やさしいうた



ひとしきり泣いた後、泣きはらした目で帰るというので車で送っていった。
エレンの家…だか仕事場だかのマンションは俺の最寄り駅の3つ先にあった。
この後仕事だというので、無理しないように言ってマンション前で別れた。
これが先週のことだ。

1週間は早く、特に師走に入ってからの速さは異常だった。
仕事も繁忙期に入り、エレンからのリクエストはなかなか仕上げられずにいる。

土曜日になり、やってきたエレンとはいつものように当たり障りのない話をするものの、どんな過去を持っていて何に傷つくのかといった話題はまだ出ない。
誰にだって言いにくいことの一つや二つあるだろうから無理に聞く気はない。
地雷さえ踏まなければいいわけだから、やるならインストか洋楽、もしくはエレンの普段聞く曲が無難だろうと踏んで聞いてみることにした。

「エレン、おまえ普段はどんな曲を聴いている?」
「あまり曲名とか意識したことなかったので、よく知らないです。最近仕事場で流してるのは。ボカロ曲でしょうか…」  
「……俺の聴いていて楽しいか?」

「すごく新鮮で楽しいです!!!今まで損してたなあって思うくらい、いい曲があるのを知って充実してます!」
「そうか」

力説っぷりに少し圧倒されながら、とりあえず知っているボカロ曲を思い浮かべてみる。
「ボカロって言ったら こういうのか?」

以前『歌ってみた』動画を適当に流していた時に、声質が似てるなと目をつけていたものだ。
それらしく歌っているとエレンはみるみる顔を赤くし、ついには膝を抱えて俯いてしまった。

「リヴァイさん…。声がえ…エロすぎですよ…」
俺の見た動画がそういうのだったんだよと思いつつ、エレンが珍しく歌の途中で呟くので止めてやった。

「あとこれとか?」
今度はテクノポップの曲調から思いついたものを歌っていく。
同じく『歌ってみた』で評判の高い曲だったから、こいつも聞いたことはあるだろう。

「結構知ってるじゃないですか」
「まあな」
「しかも歌い方いつもの何倍もやらしいです…」

反応が面白かったからな。
からかうつもりで始めてはみたものの、エレンは俯いたまま顔を上げる気配がない。
そのまま適当に弾いていたのだが、反応がなさ過ぎてだんだんつまらなくなってきた。

「エレン?」
「……」
「………はらへったな」
「…っ!ちょっと待っててください!!」

ぽそりと呟くと、エレンは顔が赤いまま勢いよく立ち上がり駅の方へかけていった。
戻ってくるやいなや、小脇に抱えた袋を突き出してくる。
袋の中身は肉まんだった。

まだ微妙に赤い顔のエレンとともに、肉まんにかじりつく。
ただの口実だったが、寒い中2人で食べる肉まんは格別に美味かった。
それからエレンの忠犬属性にも笑った。


「さっきの礼だ」
食べ終えるとギターを抱えなおし、軽快なイントロを奏でる。
透明感のある女性ボーカルメインのポップスなのでエロ差は皆無だろう。

「『カップヌードルソング』」
「え!」
「pineforest crunchのな。言っとくが、どっかのCMソングとかじゃねえぞ。さすがに肉まんの歌はしらねえからな」

イントロ中に軽く曲紹介するとエレンに笑顔が戻る。
ふわりとした、空気を温かくさせるような笑顔に、思わず俺の顔も緩んでいた。


おまえはそうやって笑ってるのが、一番似合う。
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