リヴァエレ本

□やさしいうた4 リヴァエレ 
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へ、い、ちょ、う、検索。

「うおっ」
ずらっと現れた画像を見て、思わず画面前で固まってしまった。
………モロ俺じゃねえか。



やさしいうた



真っ赤な顔で目元を潤ませるエレンの色香に酔って、吸い寄せられるようにキスをした。
避けられたり拒否されることはなかったが、あろうことかエレンは俺以外の名前を呼んだ。
俺自身、何の抵抗もなく同性にキスできたのも驚きだったが、別の名前を呼ばれて傷ついているのにはもっと大きな衝撃を受けた。
相手がどんな奴か気になって仕方がないことにもだ。


へいちょうは役職名か何かかと、帰宅後すぐに検索してみたらビンゴだった。
そこには大量の『リヴァイ兵長』と、『エレン』がいた。
多少デフォルメされてはいるものの、特徴があまりにも似通いすぎている。
来春アニメ化ともあり、あいつが書いてる作品ってのはこの漫画とみて間違いないだろう。

ここ数年、街中で2度見されることが多くなったが、もしかしてこの影響だったりするのか。
ガン見してくる奴にガンを飛ばしてやったこともあったが…あれは逆に喜ばせていた、のか?
思い出し、恥ずかしくなって画面の前でちょっと震えた。

おいエレン、肖像権の問題的にもどうなんだこれは!とうなったが、よくよく調べれば連載開始したのは5年も前だ。
俺に似てるんじゃなく、俺がこいつに似てるだけでエレンは悪くない。


はじめて俺を見て号泣したのもこいつを想ってか…
モデルにされたであろう、過去本当にいたかもしれない奴に少しイラッとしたのと、自作の登場人物への入れ込みということも…と考え、ちょっと気が遠くなってPCを閉じた。
これ以上何も考えたくなくて、その日は早々に寝てしまうことにした。



だが。
検索結果の衝撃が大きすぎて吹き飛んでいたが、脳裏に焼き付いていたのだろう。
寝る前に見た画像や世界観の影響もあってか、俺は夢の中で『エレン』の格好をしたエレンとキスをしていた。
しかも実際にしたものよりずっと濃厚で官能的で、劣情を伴う類のものだ。

エレンは嫌がるそぶりを見せず、むしろ腕を巻き付けて深いキスをねだる。
長い口づけのあと唇を離すと、エレンの目は見たこともないくらいトロトロになっていた。
俺目線の構図なので、視界の外でどこをどう触れたのかわからないが、俺の愛撫に感じて小さくその身を跳ねさせる。

エレンは切なげな表情で俺を見つめ、つややかに濡れた唇で名を呼んだ。



がばりと跳ね起きる。
呼ばれた名前は「兵長」だった。


なんて夢だ、悪趣味すぎる。
夢は無意識の願望だとか聞いたことがあるが、ガキで男のエレンと他人との情事を望むとか、
俺はいったいどんな性癖だ。
さっき見たばかりの夢に頭を抱え、自己嫌悪に陥っているというのに、俺の息子は元気に天を突き萎える様子もない。

「…くそっ」
悪態をつき、自分のものを取り出して扱く。
さっき夢に見たエレンの服装をいつもの服に替え、呼び名を「リヴァイさん」にすり替え、ところどころ補完した想像で俺はイッた。

自分の性癖を疑ったことは過去一度もなかったが、俺は男で抜ける人間だったというわけだ。


まだ早朝ではあったが、もう一度眠る気にはなれず、ipodをアンプにつないで適当に流す。
真空管の暖かな明かりと音が部屋を満たして、俺はもう一度ベッドにもぐりこんだ。
スピーカーからLinkin Parkの『castle of glass』が流れる。
好きな曲を集めたものだったが、しょっぱなからこれとはついてるな。

伸びやかな音や声が溶けて、くさくさした、乾いた心に沁みこんでいくようだった。



日が高くなってから、俺は本屋へ出かけた。
エレンの漫画を買うためだ。
どんな表紙かは知らねえが、そっくりな顔で買いに来るとかそれはどんな阿呆だと思い、
念のためキャップと眼鏡をつけて向かった。

店員に置いてある場所を聞くべきかと漫画のコーナーに回れば、それはすぐに見つかった。
目立つ一角に平積みされた専用コーナーがあり、ポップや帯にはやれなんとか賞受賞だのすごいマンガ1位だの発行部数1000万部突破だの、えらい人気っぷりだ。

相当稼いでやがるな、あのガキ…
3冊づつくらい買うかと投資する気でいたが、俺の投資額なんざ毛ほどにもならねえだろう。
無難に全巻1冊ずつ購入し、家に戻る。
読み進めていくと、えらくダークな内容に驚いた。

いったいどんな生き方をすれば、10やそこらのガキが自分を主人公にこんな暗い話を書けるっていうんだ。
母親を殺され、化け物とののしられ、仲間を失って。
それでも強く前を向く『エレン』は物語の中で壮絶な日々を過ごしていた。

エレンの描く『エレン』ということもあってかだんだん愛着を感じ、途中からわいて出た『兵長』が『エレン』をけりまくったところでは殺意がわいた。
2人の間に恋愛的な要素は見られなかったが、エレンはさぞ『兵長』とやらに憧れていたんだろう、どんなスーパーマンだってくらいかっこよく描かれている。


そして、この間の涙の理由をようやく理解した。
『兵長』に似た俺が『兵長』のイメージとかけ離れた歌を歌い、さらにはこんな残酷な物語はいらないとまで歌っちまったんだからな。

「…悪かったな」


次に会ったら、まずキスしたことを謝って、思い切り甘やかしてやろう。
そう、思った。
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