エレリ本

□記念日という名の何でもない日 エレリ
2ページ/3ページ



・・・・・・・

「エレン。今日何があったか話すから、今夜、俺と一緒に、寝てほしい」
そう言ったリヴァイさんの目はひどく揺れていて、俺はどちらに返事をすべきか迷った。

「………………わかった。お風呂からあがったら、向かうね」
腫れと熱は引いたものの、幼い顔に青く残る痛々しい傷跡をするりと撫でる。
久しぶりに感じる、この温かさに飢えていたのは俺も同じだ。
ただこんなにボロボロになっているリヴァイを、優しくしてやりたい…そう、思った。


入浴を済ませてリヴァイの部屋に入ると、ベッドの上で膝を抱えるリヴァイがいた。
小柄な体が余計に小さく見え、俺はリヴァイの隣に座り、頭を一撫でしてこちらに引き寄せた。
とたんにぽろりと新たな涙が零れ、俺はなだめるように額にキスをする。
「冷えるよ、お布団入ろ」
こくんと頷くリヴァイに、引き寄せた上掛けをかけてやる。
「どこかほかに怪我はない?」
こくり。
「頬、痛む?」
すりすりと額をすり寄せるように返事をし、エレンが優しくしてくれてうれしい、と呟いた。
「大人げなくてごめんね、寂しい思いさせたね」
そう言ってもう一度額にキスを落とすと、ぼたりと涙を落とし堰を切ったように話し始めた。

「違う…!俺が悪かったからだ。あいつが、エレンに変な写真、見せたって聞いた…っ!あれは、俺が尻に物を入れてるのを知られて、脅されてただけだ。今日、もうやめてくれって、頼んだら、逆上されて襲われた…っ」
こんな体でなきゃあんな奴…ちくしょう。
ぼたぼたと大粒の涙を流し、震えながら語られるその内容に総毛立つ。
「ちゃんと終わりにしてほしくて、証拠を残した。ビデオを撮ったから」
そう言ってリヴァイは背後からハンディカムを取り出し、震える手で差し出した。
受け取ったはいいが、本当に見てよいものか逡巡ししばらく開けずにいた。
リヴァイも俺も動けず、互いにそれを見下ろしたまま沈黙が続き、俺はようやく再生ボタンを押した。

画面上はほぼ静止画だったが、ビデオがセッティングされしばらくたった後、扉の開く音とともに『待たせたな』と聞き覚えのある声がした。
声だけでわかる、まぎれもなく忌々しいあの教師だった。
こんな関係はやめたいという少しの問答の後、『エレンに嫌われたら生きていけない』というリヴァイの悲痛な声が胸を突いた。

そのうち、必死に抵抗するリヴァイが画面内に現れ、殴られそうになる場面に湧き上がる怒りと気持ち悪さから思わず目を背けると、側にいたリヴァイに泣きながら請われた。
「最後まで観ろ…っ!俺ちゃんと守ったから、頼む……」
金切り声の流れる画面に恐る恐る目を戻すと、今にも挿らんとする汚物が離れていく所だった。
青い顔をしたリヴァイが大写しになった後、大きく揺れて映像が途切れた。

想像以上に胸糞悪い映像に、吐き気をもよおし口元を押える。
あの日、瞼の裏に焼き付いた皮肉にゆがんだ顔と、鼓膜に残るクソ忌々しい声が鮮やかに蘇った。
『合意でなきゃこんな表情できないだろ』
『感謝しろよ、俺が慰めてやってんだ』
ふつふつと、忘れかけていた遠い昔の激情が首をもたげる。
まじでこいつ、なんとかしねえと……



そこへ、ついと力なく袖を引かれた。
怒りで目の前を真っ赤にしたままそちらに視線を送ると、血の気の引いた顔でぽろぽろ涙をあふれさせ、訴えるリヴァイがいた。
「俺、いっぱい触られたけど、粘膜はどこも、誰にも許してねえから。…からだ…き、きたないかもしれないけど、おねがいだから、俺のこと嫌わないで…っ」
目を伏せ震えながら俺の返答を待つリヴァイに、ぎゅうと胸が引き絞られる。
嫌うわけない、汚くもない、そう言って力の限り抱きしめる。
「エレン、俺んこと抱いて」
リヴァイは俺にしがみつきながら、小さな声で呟くように言った。
「ダメだよリヴァイ、こんなぼろぼろのリヴァイには手を出せない。心と体を癒せるのは、何もエッチだけじゃないんだよ?」
「エレン…っ!」
ぐいと腕をつっぱり体を引きはがされる。
ゆるゆると両手が下がっていき、俺の両腕をつかんで止まった。
「…今回ほどじゃないけど、先生以外にも、何度か襲われかけてる…っ。みんな俺がエロいのが悪いって言う。そのたび返り討ちにしてるけど、この体でいつまでこらえきれるか…」
腕にしがみつく小さな手が震える。
「初めては全部エレンとがいいんだ、できればこの先ずっとエレンだけがいいんだ。誰にも奪われたくない。たのむから…っ!」
俺を見上げ、切なげに訴えるリヴァイに、俺は───

今生で探し続けて15年、やっと出会えたあなたは俺の弟だった。
年端もいかないあなたを、大切に大切に育ててきたのに。

「今はまだ、感情が抑えられない…ひどくしてしまう、壊してしまうかも、しれない」
小さく呟いたそれは、きっとそれでもいいと言われることを望む思いが透けて見えただろう。
「優しくなくていい、おまえに壊されるなら本望だから」

その言葉を待って、俺はリヴァイに噛みつくように唇を合わせた。
中に押し入って、舌を絡めて引きずり出す。
記憶より小さく薄い舌を堪能するためより深く口づけて、上あごをくすぐった。
頬が痛むのか息ができなくて苦しいのか、歪むリヴァイの顔をやらしいと思うほどに、俺は末期だった。
もう待ては聞かない。
どんなに泣いてわめいたってやめてやれない。
溢れる唾液を流し込み、ごくりと喉が鳴る音を聞いてようやく唇を離した。

息を乱し、間近で重なり合うこの瞳を知っていた。
トロトロにとかされて、少し恥ずかしいような、どこか悔しそうな瞳。
かつて愛してやまなかったそのまなざしとの、25年ぶりの邂逅だった。


次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ