エレリ本

□あなたのお口に入りますか エレリ
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「これがいい」
「いや、ムリでしょ」
「…これがいい」
「リヴァイさん、聞き分けてください」

とあるスーパーでそれを見かけて、いいイベントだなあと思ったことは事実だ。
でもこんな売り場の真ん前で繰り広げていい攻防じゃない。
だってそれは…
「あなたのお口に入るとは思えません!」

どの恵方巻を買うかのサイズ選択だったからだ。



前世からの恋人で、今は俺の小さな弟でもあるリヴァイさんがしきりにコレと推すのは、俺の口でやっと入るかどうかという太巻きだった。
俺のごにょごにょですら先っぽ咥えるのがやっとのくせに、何こんなでかいのに挑もうとしてるんですか。
だって…とかまだ煮え切らない様子のリヴァイさんだが、ここで負けたらだめだ。
この人は味とか中身の具で選んでるんじゃない。
その時の見た目重視なんだ。
どうせもぐもぐしながら、ん…苦しい…っとか涙目になってみたりとかいやらしい顔してんくんくほおばってみたりとか、そんなこと考えてるんでしょう。
くっ…想像してちょっと勃っちゃったじゃないですか。


「だいたいあなた、食べ方知ってるんですか?かぶりついたら最後までくわえたまま食べきらないといけないんですよ?福が逃げないように、口から外したり、食べてる間はしゃべっちゃいけないんです。この量食べきれるんです?」
「2人で分け合えばいいだろう」
「切ったら縁が切れちゃいますよ」
「こう、向き合って両端から食べれば…」
「それじゃ恵方に向けないでしょうがっ!」
「じゃあハーフサイズで…」
なおも食い下がろうとするリヴァイさんに、渾身の一撃を繰り出す。

「…リヴァイさん、俺より太いの咥える予定なんてあるんですか?」
冷ややかに見下ろして問えば、かあっと頬を赤く染めてふるふると首を振った。
「じゃあ必要ないですよね。ちゃんと子供用のお口サイズがあるんですから、ここから選んでください」
潤んだ目で見上げてないで、早く。
リヴァイさんが選び始めたのを見守りながら、ようやく一息つく。
言わなくていいことまで言ってしまった。
近くには誰もいなかったはずだけど、と見回したところで主婦の一人と目が合った。
青い顔してこちらを見ている。
…ちょっ!もうこの店これないじゃないですか!!


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