エレリ本

□かの姫の初夜物語 エレリ♀
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婚礼の儀を滞りなく終えたその夜、全身を磨き上げられ香油で肌を整えられた。
甘ったるい花の匂いをさせながらベッドでおとなしく待つなんてクソだ。
あのときの俺はどうかしていた。
婚儀の間中耳元でぼそぼそぼそぼそ言いやがって、いたたまれなくて発狂しそうになったじゃねえか。
俺は愛だのなんだのと恥ずかしい言葉を並び立てるあいつに惚れたわけでも絆されたわけでもねえんだ。



そいつが寝所を訪れるまでの間にとんずらしてやろうと、俺は隠し持っていた短剣でシーツを切り裂いた。
手早くより合わせて長いロープ代わりにし、ベランダの桟に括りつける。
簡易のものではあるが、ようは下の階までもてばいい。
腰がベランダの端を超えたところで、俺は身を振り子にして階下に飛び降りた。
落下の衝撃を覚悟していたのに、痛みがないどころか何者かに抱き留められてひどく焦る。

「情熱的ですね。自分から俺の腕に飛び込んできてくれるなんて」
「…っ!!??」

にっこりとほほ笑むその男は件の花婿、新王エレンだ。
「てめえ、なんで…」
「階下にも部屋を設けてくださいと、あなたのお父様に進言したんですよ。あなたのことだから逃げ出すんじゃないかと思って」
大当たりでした、と言って額にキスを落とそうとするのをどうにかさえぎった。
「そりゃ悪かったな、いい加減下ろせ」
「もう逃げませんか?」
眉根を下げて問われ、思わず言葉が詰まる。
「…逃げねえよ」


そうっと壊れ物のように下ろされたのち、俺を怖がらせないようにだろう、確認するように手を取られて部屋の中へと誘われる。
「抱きたいのはやまやまですが、あなたの気持ちをないがしろにしてことを進めるつもりはありませんよ」
今日は一緒に寝るだけにしましょう?

少し寂しそうにも見える微笑みを見せられて渋々頷き、促されるままベッドに入った。
ぼんやりとした灯りの中で、背中からやんわり抱き込まれる。
「本当に愛しい相手となら、こうしているだけで幸せなのですね…」
すり、と身を寄せるようにして零される言葉のせいでむずがゆい。
落ち着かなくて身をよじると、尻に固いものが触れた。

こいつ、帯刀したまま床に入りやがったのか。
それに手を伸ばし、ついと触れたところで背後のエレンが身を固くした。
腕を取られ、諌められる。

「…っだめですよリヴァイさん。俺の理性を試すつもりなら、相応の覚悟をもってしていただかないと」
やや頬に赤みを伴って咎められた内容に、何のことかようやく思い至る。

「…っち、ちがっ!これは短剣かと…っ」
「あなたを傷つけるものをおいそれと床に入れませんよ。もちろんコレも、使うときは細心の注意を払って、あなたが痛いと感じないように努力しますから」
ぐいとおしつけられて、顔がかあと熱くなった。

誰も、そんなことは聞いてねえ…
顔を隠すように、それから離れるように身を縮めると、晒されたうなじに口づけが施される。
「ねえリヴァイさん。こんな風になってまで耐え忍ぶ俺に、少しだけご褒美をくれませんか」
ちゅ、ちゅと軽いリップ音の合間に問われる。
「…な、んだ…」
触れられるたびにじわじわと溜まる熱に、首筋まで赤くなってやしないかと冷や冷やしながらどうにか返答を返す。

「あなたとキスがしたいです」
「…もう勝手に、してるだろ」
「いえ、…あなたの唇に」
ゆっくりと肩を引かれて、声の位置が耳元に変わる。
俺は頑なに顔を伏せ抵抗の意を示した。
「いやだ」
「…初夜ですよ?」
「俺は納得してねえ」
「婚儀ではあんなにかわいらしかったのに?」
「…っあれはおまえがっ!」


婚儀でのあれこれを思い出してカッとなったのがいけなかった。
思わず振り返ったところを唇を奪われて固まってしまう。
ちうと軽いキスの後の蕩けたような笑顔に、俺の顔はいっそう赤く染まったんだろう。

「…かわいい。あなたが愛おしくて、どうにかなってしまいそうです…」
熱のこもった視線に囚われ、再びゆっくりと降りてきた唇を俺は抵抗も忘れて受け入れる。
緩んだ歯列を割り裂いて舌が入り込み、驚いて逃げる俺の舌を追いかけて絡みとって吸い上げられた。
「んっ、んむ、…ん」
経験はおろか見たことも聞いたこともないその行為に頭ではひどく混乱しているのに、股間にじゅんと甘い疼きが走って焦る。
自身の溢れた唾液と舌を伝って流れ込んだそいつの分とが混ざって喉奥に溜まり、ごくりと飲み込んだ。


「…っはぁ、は…、ぁ…っなんだ、今のは…っ」
ようやく唇を離され荒い息のもとで問えば、驚いたような声が返ってくる。
「何って、キスですよ?この国ではこのようにされないのですか?房事の席で習うでしょう」
「〰〰っ!知るかっ」

そもそも俺が男を喜ばす方法なんぞに興味があると思うのか。
「では、子供の作り方は?」
「…そのくらい知ってる」
「それはよかった」
クスリと笑んで返される言葉に、バカにされたようで腹が立つ。
再び背を向け横になると楽しそうな声がよこされた。

「では、俺が教えて差し上げます」
「…必要ない」
「色々な方法があるのですよ?あなたが言ってらした、男の下で喘がずにいられる方法も」

「…そんなのがあるのか」
ちらりと横目で見やると、にこりと笑って大きく頷いた。
「……お前はそれをどうやって学んだんだ」
ふと浮かんだ疑問を口に出せば、その口元がゆるゆると緩んで俺をぎゅうと抱きしめた。

「もうあなた、俺をどうしたいんですか…」
ちゃんと我慢もできる男だって、証明させてくださいよ。
何のことだと、脈絡のない流れを反芻したところでまたしてもようやく思い至った。



違うっ!断じてそういう意味じゃねえ!


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