エレリ本

□エセ忠犬わんこ
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においをかぎたいです
絶対触りませんから!
手は床についたままにしますし…だめ、ですか?


「…チッ 好きにしろ」
「ありがとうございます!!」
手をついたまま身を乗り出すと、先生の体が逃げるように後退した。
「あの、絶対触りませんから」
「顔が怖えんだよ」
「すみません」
そんなやりとりをしながら眼前に迫った鎖骨やうなじをなめるように見て首筋に鼻先をそわせ、触れるか触れないかのギリギリのところで大きく息を吸い込んだ。
シャンプーの香り?に先生愛用のタバコと、かすかに混じる、たぶん、汗の香り。
くらくらする。これだけで酔ってしまいそうな。
くんくん嗅いでいると、腰が少しずつ重くなってくる。身に覚えのあるあの感覚。
息も熱く、荒くなってきて、興奮してることがまるわかりだ。
やばいかっこわるいと思うのに止められるわけなかった。
さっきの時点で怖がらせてしまった顔は、今やとんでもないことになってると思う。
この姿勢で顔を見られることはないと思うし、欲情しきった顔くらいは許してほしい。
かろうじて床にとどめたままの両手と、触れずにそわせた鼻先が俺の理性のすべてだった。

「おい、あまり息を吹きかけるな」
「あ…すみません」
「…ッ!耳元でしゃべるんじゃねえ」
もういいだろう、そう言って肩口を押しやられた。
離れた拍子に先生と目が合ってしまった、顔を見られてしまった。
床に縫いとめたはずの手も、離れてしまった。

「なんて顔しやがる」
「先生こそ」
顔が赤いです、目元が少しうるんでいて、ひそめられた眉がひどく…

「キスしていいですか」
「ダメだ」
即答…
がっくりとうなだれた視線の先に、先生の盛り上がった股間があった。
ちょっとどころじゃないくらいびっくりした。
視線を感じたのか、先生の膝がごまかすようにずらされる。
「じゃあ、触るのはだめですか」
「ダメだ」
「どこをくらい聞いてくださいよ」
「目線でわかるだろ」
「先生を気持ちよくしたいです」
「いらねえよ」
「じゃあ、どうすんですかこれ…」
触れるか触れないかのところを、指先でなでる。
「おいッ…」
制止するように腕を取られたけど、それ以上俺が進むことはないと分かったのか、はがされることはなかった。
「おひとりでされるなら、どうか俺の前で」
「ッ、するか馬鹿」
赤い顔でにらまれても、迫力がないばかりか艶めかしさが増したにすぎない。
少し身を乗り出し、掴まれたままの手で撫でさするしぐさを再開する。

「じゃあ、ご褒美に触らせてください。何か問題を出して、俺が答えられたら。どうです?」
先生はしばらく逡巡したあと視線をそらせ、原子記号、とだけつぶやいた。
化学の基本中の基本で、俺が最初に覚えた、今や間違えようもないもの。

それは、どういう意味ですか、先生。
言外に、触らせてもいいと、むしろ触ってほしいという意味ですか。
なじんだ記号を唱え終えるのに、たっぷり一分はかかったように思う。
わざとじゃない。パンクしそうな頭で間違えないようにするにはそれが精いっぱいだった。
その証拠に右手を動かす余裕なんてなかった。触れるぎりぎりで静止したままだ。
体を支えている左手はしびれたようになっていたけれど、そっちに気をやる余裕もない。
唱えてる間、先生の顔を見つめ続けていたら、徐々に赤みが増して首元まで染まっていくしまつ毛は震えて目はさらにうるうるになってるし、口元がはくはくしていて艶めかしいなんてもんじゃない。
かわいい。ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。この人を俺のものにしたい。
頭が沸騰しそうだった。

「…あってますか。せんせい、」
全部言い終えた後、これは少し狙って、耳元でささやいた。
思ったより吐息交じりのかすれた声になってしまったけど、耳元だったから十分届いたはずだ。
ちなみにこっちはわざとじゃない。
本当ですよ、先生。
「…クソッ、後で覚えてろよ」


──GOがでた。
あふれる唾液を飲み下すと、まるで脊髄反射のように右手が動き始めた。
ずいぶん焦らしてしまったようで、思った以上に固くなっている。
「すごい、ガチガチです、先生」
「お待たせしてすみません」
「いっぱい気持ちよくしますね。いいところ、教えてください」
ジーンズ越しのそこは大きくテントを張っていて苦しそうだ。
形を確かめるように撫でさすると、掴まれた腕に力が込められた。
背けようという動きはない。
拒まれているというより、羞恥やつらさからくるもののようだった。
「脱がせますね、先生」
「もうおまえしゃべるな」
耳元でしゃべり続けたのがいけなかったのか、先生は空いている方の手で俺の口許を覆った。

でも先生、いろいろ確認しないと。
今許可が下りているのは、この手で、先生のここを気持ちよくすることだけ?
気持ちよくするためなら、ほかのところも含めていいの?
さっきの問題の、本当の解答はどこまで?

目で問いかけてみるけど、先生からの返答はない。
しゃべるな、かあ…
ほんと言うとキスがしたいんです。
薄くあいたその唇を奪って、あふれる唾液を流し込みたい。
体中なめてさすって、先生のいいところを全部探したい。
もっと言うと、思うさま揺さぶってこの澱のようにたまった精液を流し込みたいんですよ先生。
どこまで許してくれるのか確認できなきゃ、全部俺のいいように解釈しちゃいますよ。


塞いだ手が逃げないように、しびれた左手でその手を取る。
手のひらに軽く口づけた後べろりとなめあげた。
「…ッ」
それまで俺から顔をそむけていた先生は驚いたように振り返り、手を引き抜こうとするが、簡単には振りほどけないようだった。
しびれた手で加減がわからなくなっていたのもあるけれど、せっかく先生から来てくれたんですよ?
逃がすはずがないじゃないですか。
前回触れずにいた手首を親指で撫でさすりつつ、指の付け根や指先を味わう。
支えを失った右手の方は少しの間お休み。
先生の目を見ながら、エロい手をかんだりなめまわしたりした。
「…おい、エレン」
先生本当に潔癖症ですか?
最初に腕を引き抜こうとした以外、されるがままになってるのはなんで?
俺にはどこまで許されてるの?
親指と人差し指の間を唇に見たてて、まるでキスするように、キスをねだるようになめしゃぶる。
「エレン」
声に諭すような色を見つけて、手首の内側に口づけた後、しょうがなく、本当にしょうがなく手を離した。
先生の手がゆっくりと降ろされるのを最後まで見やってから、先生の目を見、唇にいったん視線を落とし、もう一度視線を合わせる。
その間先生はじっと俺の目を見ていた。目元がとろんとしていて、最高にエロい。
敏い人だから俺の言わんとしていることわかってますよね?
先生が俺の唇に視線を移したのを見計らって、俺は自分のくちびるをゆっくりとなめた。
キスがしたいです、先生のくちびるを犯す、許可をください。


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