エレリ本

□この想いに名前などない
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「───跪け豚野郎ども」
ハウリングするマイク越しに低く唸れば、フロアを揺るがすほどの悲鳴でもって観衆が答えた。
それに呼応するようにバスドラムがビートを刻み、跳ねるようなギターが加わる。
疾走感のあるイントロを奏でた一瞬の静寂ののち、軽くマイクを離して大きく息を吸い込んだ。

この日のために作った詞を紡ぐ。
耳をつんざくような歓声が俺たちを包み、目元を覆う包帯の向こうで色とりどりのライトが躍る。
薄い布を通しても客たちとの一体感がわかる。
気分が高揚する。
むせ返るような熱気の中、髪をかき上げ汗を散らして歌い上げていく。
予定していた曲目を終え暗転して引っ込めば、アンコールを望む生徒たちの声で埋め尽くされた。
異例のことだったようで運営側が騒いでる。
メンバーも俺にどうするとか聞いてくるが、今の俺の状態で出て行けるわけない。
アンコールが決定になるようなら先に行ってろと言い置いて、俺は袖口の隅へと急ぐ。
控えていたエルヴィン先生の首筋に、倒れ込むふりをして絡みついた。
「リヴァイ」
暗い舞台袖とは言え誰に見咎められないとも限らねえ場所だ。
さすがにこれはまずいとたしなめるそいつのネクタイをひっつかんで耳元に唇を寄せる。
「悪いが…鎮めてもらわねえ方がまずい」
ひそめた声で告げ、昂ぶりを長い足に押しつけた。
こめかみを汗が一筋流れ落ちる。
「なあ、せんせい…」
反応のなさに焦れて鼻先を首筋に擦りつければ、少しの思案の後ぐいと引っ張られた。


カーテンに隠れて声を押し殺して、背後から先生の大きな手で弱いところを弄られる。
根元から先端まで微妙に力加減を変え、扱き上げていくその緩急はすげえ俺好みだ。
直に触れられる手が熱くてすぐにでもイってしまいそうになり、歯を食いしばって必死に耐える。
クソ、膝が震える。
腰が揺らめく。
漏れ出る吐息が止まらねえ。
手の甲に齧りつくみたいに押し当てていると、背後からひそりと囁かれた。
「アンコール、答えることにしたようだ。あまり遅いと苦情が出るんじゃないか」
耳元に吹き込まれる低い声音がずくりと腰にくる。
「…ぁ、く……ケツに、ぶちこめば…すぐに…っ」
おぼろげな視界で声のする方を振り返り頬をすり寄せてみるが、だめだといつものように短く断ち切られる。
少し退がれば固いものがケツに触れるっていうのに、それをねじ込まれたことなどただの一度もない。
包帯越しでは表情もよく見えないが、きっとまた俺の痴態になんざ興味ねえみたいな顔してんだろう。

手慣れた風を装って誘い、こうやって過ごすようになって早半年。
当初頑なに拒んでいた先生は俺のを鎮めるまではしてくれるようになったが、それ以外の箇所に触れることも先生のに触れることも許してはくれなかった。
だけどきっといつか。

……クソが…いつかって、いつだよ。

「エルヴィン…せん、せ…っ」
握りしめた拳がぶるぶる震える。
我慢汁がすごくて、限界が近いのは絶対バレてるだろう。
「イきそう?」
「…っあ、……せん…っ…、ケツ、弄っ…て…っ」
ちょっとでいいから。
服の上からでかまわねえから。

でもそれには何も返されず、扱く速さだけが変わる。
俺は結局耐えきれずに、性器に添えられた、おそらく先生の上品そうなハンカチの中に吐精した。
「んく、…くぅ、う…っ」
ぴゅくぴゅくと全部出しきるのを待って、どうにか荒い息を落ち着ける。
幾ばくかの空しさに蓋をして乱れた衣服を整え、後ろを振り返った。
早くステージへ行けとは言われない。
すぐそばで俺を見つめている、そんな気配がする。

「先生…アンコール終わったら、準備室寄っていいか」
先生の鎮めてえ、そう言って距離感がつかめないふりしてそこに手を伸ばす。
でかくて固いものが指先に触れる。
じんとした熱を服越しに感じ、そのまま撫で上げようとして腕を制された。
「行かないよ」
いつも通りの、硬い声。
何も変わらねえ。
期待なんてしてねえけど、身長差あって見えねえだろうけど、今目元が隠れててよかった。

でかい図体を押しのけステージに向かおうとしたところで、腕を取られて呼び止められる。
「リヴァイ、待ちなさい。ネクタイが曲がっている」
先生の手が伸び、胸元のそれを整えていく。
しゅ、しゅと小さく衣擦れの音が耳に届く。
アンタはこんなことくらいと何でもないんだろうけど、俺にとっては──
握った掌がわずかに湿る。
擦れた首筋がちりりとした。
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