エレリ本

□この想いに名前などない
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・・・・・

「待たせたな豚共。それとも…もっと焦らされる方がよかったか?」

その日一番人気のボーカルがステージに現れ、少しかすれた声がマイクに滲んだ。
挑発的な物言いに、女だけでなく男ですらも歓喜する。
その人はさっきまでよりもどこか気だるげで卑猥で、淫靡な雰囲気を漂わせていた。
その声音に一つ一つの動きに、目を奪われる。
マイクスタンドを指先でじんわりと撫で上げ、まるで好きなやつの陰茎に触れるみたいに細い指先をマイクに絡ませていく。
時折解いては、宙を包帯の上を、体の縁を、誘うみたいに指先がひらひら舞う。
上唇をぺろりと舐めて赤い舌を覗かせ、熱い吐息をマイクに零す。
ギターやドラムの音に入り混じるそのわずかな音を感じようと、たぶん誰もが神経を研ぎ澄ましていた。


初めて見た時にはその圧倒的なカリスマ性とパフォーマンスにただただ見惚れるだけだったが、今の俺には彼の正体がわかっている。
昔から視力がよく、暗い袖口でその人がエルヴィン先生の腕の中に倒れ込んだのも、先生がその人の名前を口にしたのもよく見えたからだ。
そのあとまるで一発やってきましたって風に現れたのを見て全部理解した。
ついさっきその人がエルヴィン先生ともつれるように絡み合っていただろうってことも。
ステージの上で、誰を想像して誘うようなしぐさをしているのかってことも。
普段の先輩とのギャップに驚きがないわけではないが、今は。
その包帯の下でどんな目をしているのか、暴きたくてぞくぞくする。
俺の中に潜む獣を意識する。
こんな衝動、今まで生きてきて一度だってねえよ。


アンコールを終え、人目を忍ぶように消えたその人のあとをこっそり追った。
誰も見ていないことを確認して入っていった先は教科準備室だった。
普段から使用者の少ないそこは、今日みたいな日に訪れる人はまずいないだろう。
このあとの予定をさぼるつもりなのか、誰かと──まあたぶん先生と、落ち合う約束でもしてるのか。
すでに先生も来ているのかと様子を窺ってみるも、話し声はおろか物音ひとつしない。
このあと現れるようならと小一時間ほど物陰に隠れて待ってみたが、先生が来た様子はなかった。

できれば決定的な証拠をつかみたかったけどとため息一つをついて、扉に手をかけた。
予想していたよりずっと大きな音を立てて扉が開く。
「…おせえ。結局来るんなら…」
これまで聞いたことのないどこか甘えたような声で、スーツ姿はそのままに、包帯だけを外したリヴァイ先輩が奥から現れた。
俺の姿を認めてわずかに見開かれた目は、すぐにいつも通りに戻る。
「どうも」
「…エレンか。どうした」
「待ち合わせでしたか?」
突っ込まれるのを恐れてか、先輩からの返答はない。
「相手、エルヴィン先生ですよね」
「いくら正体を隠してるからって、あんな場所でエロいことしちゃうなんて、まずくないですか?」
「普段物静かな先輩があんな風に歌うだなんて、誰も思いつかないですよ。エルヴィン先生とやらしいことしてるってことも」
確たる証拠はないが、全部知っているふりをして言葉を続ければ先輩の顔は徐々に警戒色を強めていった。
「…んだそりゃ。脅しかよ」
かまかけでしかない言葉にこんなにうまく反応してくれて、本当助かる。

「俺にも一枚噛ませてくださいよ」
ね、先輩。


日の傾いた部屋の入り口に鍵をかけ、2人局部を晒して扱きあう。
場所を変えたいと言い募る先輩を一蹴して、さっさと終わらせちゃいましょうと引き寄せた。
肌の白い先輩は服の下はもっと生っちろくてすごく卑猥だ。
さっきステージでマイク握ってた指先が俺のを掴んでると思うだけで興奮する。

「先輩、エルヴィン先生のこと好きなんですか?」
「なわけねえだろ、ただの性欲処理だ。ライブのあとはどうにも滾るんでな」
へえ、と返しながらまだ柔らかい先輩のに掌を這わせる。
その割には、普段から憂いを帯びた目で先生を追ってる気がするんだけどなあ。
今まで気にしてもいなかったけど、思い返せばあれもこれもと出てくるくらいに先輩はわかりやすい。
さっきの声だってそうだ。
あんないそいそと。

「てめえこそ男襲うとかホモかよ。気持ち悪い」
「まさか。あなたと同じですよ、滾ったんで相手してくださいってだけです。ただの性欲処理なら、相手は俺だってかまわないでしょう?」
そう言って笑えば、俺にだって相手を選ぶ権利くらいあると返された。
「ばれちゃったんですから、腹くくってくださいよ」
先輩の後ろに手を伸ばし、指先を含ませる。
「すっげ、ケツの穴柔らかい。もしかしてさっき挿れられてたんです?」
「…ねえよ」
「でもこれ、普段から弄ってるでしょ?ほら、こっちも勃ってきた」
ぬくぬくと抜き差しするうちに、柔らかかった先輩の性器が芯を持ちはじめ、頬にもほんのりと赤みがさしてきていた。
「ね、横んなってよ」
弱みを握ったせいか、先輩は何されても大人しく俺に従順だ。
でも組み敷いた先輩の目は固く閉じてるし歯は食いしばってるしでどこか面白くない。

せめて普段見えない部分の肌が見たくなって、ネクタイの結び目に指をかけようとしたところで先輩の体がこわばった。
腕を取られ、下から睨まれる。
「やめろ。突っ込むだけなら上を脱ぐ必要なんてねえだろ」
「雰囲気ですよ」
「触んな」
頑ななその様子に、ひどくいらつく。
「じゃあ、代わりにいい声で啼いてくださいよ」
ぐっと腰を突き出す。
思わず漏れた様子の声がすげえ腰にキた。
熱くて狭い肉壁をかき分ける。
やっべ、ケツってこんな気持ちいいのか。
足を持ち上げて、擦って、突き上げて、奥の奥をぐりぐりと抉る。
マイク越しに耳を傾けていた声が、吐息が、こんなに近くで。

夢中で突き上げてたら、小さなノックの音がおもむろに響いた。

「声が外まで漏れているので、もう少し静かに」
廊下からかけられた低く固いその声には聞き覚えがあった。
組み敷いたその人には、俺よりももっとずっと。
先輩は指先ひとつ動かせず、瞬きひとつできずにいた。

そうして足音が遠ざかっていく。
いいんですかと問えば、小さな声でうるせえと返ってきた。
「どうせ尻軽だって思われてる。…今さら何も変わりはしねえよ」
言葉とは裏腹に、傷ついた表情を隠しきれないリヴァイ先輩を見て、胸の内側がざわりとした。
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