リヴァエレ本

□やさしいうた2 リヴァエレ 
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よっぽど好きな曲なのか、そわそわしたりしょんぼりしたりするリヴァイさんを見て、思わず笑ってしまった。
根本的なところは変わらないけれど、この時代のリヴァイさんは少し幼い印象を受ける。
死線をくぐり抜けたり、人の死に直結するような決断を迫られる経験がないせいだろうか。
それでも年相応の人生経験を経てきたんだろう。
声を張り上げて歌うことはないけれど、声にも音色にも深みがあり、曲が変わるたびにその世界観へ引き込まれてしまう。


「リヴァイさん、さっきから洋楽ばかりですよ。日本語の曲はないんですか?俺、英語はまだ簡単なのしかわからないんですから」
「おまえなあ…まあそうだろうとは思ったが…邦楽っていうとこれか」

 ──例えば誰か一人の命と 引き換えに世界を救えるとして
  僕は誰かが名乗り出るのを 待っているだけの男だ…ーー

やさしく落ち着いた声音がとつとつと歌い上げる。
愛する人をもつ多くの者の共感を得る歌なのだろう。
たぶん、過去のあの日々においても。
ただそれは、調査兵団の兵士長を務め、人々の期待と責任を一身に背負った者から紡ぎだされるには、あまりにも皮肉な歌だった。
記憶がないことをまざまざと見せつけられるような感覚。
目の前にいる人が、別人であることを突きつけられる。

 ──…駄目な映画を盛り上げるために 簡単に命が捨てられていく
  違う 僕らが見ていたいのは 希望に満ちた光だーー



「…エレン。俺はまた何か地雷を踏んだか?」
声をかけられてハッとする。
俺の頬には何筋か涙が伝っていた。
慌てて袖口で涙を拭う。
「すみません、続けてください」
「…いや、もうこれはやめておこう」
リヴァイさんはギターを傍らに置くと、俺に向き直った。
「エレン、俺はお前を泣かせたいわけじゃない。今俺が把握しているのは、おまえが過去大事な人と何らかの方法で別れたってことくらいだ。知らなきゃ避けようがない。言いたくない事は言わなくていいから、少しずつ話してくれるか?」

優しい言葉に涙があふれて止まらず、俺はわずかに頷いた。
俯いていると、リヴァイさんの腕の中にぐいと引き寄せられた。
そのままあやすように背中をポンポンとされる。

……記憶がなくても、別人でも、俺はこの人が好きだ。
肩口に額を摺り寄せ、側にいられる幸福を噛みしめていた。
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