リヴァエレ本

□やさしいうた3 リヴァエレ
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「じゃあ次は動物の歌」
「動物、ですか??」

リヴァイさんはメロディを奏でながら器用にギターを叩いてビートを刻み、それまでより1オクターブ高く歌っていく。

やや無理してるんじゃ?と感じるキーだけど、にぎやかな曲調と心なしか楽しそうな様子に、見てるだけでこっちまで楽しくなってくる。
叩いたり弾いたり、時には何をどうやってるのか目で追えない動きもある。

音色が多彩で、華やかな曲や激しい曲もあるのに…


「なんでリヴァイさんのギターは優しい音色がするんだろう」
疑問が口から出ていたみたいで、リヴァイさんはちゃんと答えてくれた。
「ギターの材質や弦で音や響きは変わるし、俺は指弾きだからな。なんなら、おまえも弾いてみるか?」
「!いいんですか?俺、触ったこともないんですけど」
「基本は教える。あとは好きに鳴らせばいい」


ギターを落としたりしないように慎重に受け取り、見よう見まねで構える。
リヴァイさんのギターは側面が丸くなっていて、よく見かける形状と違う。
でもその丸みが体にフィットするようだった。
ちょこちょこ修正をもらいながら、なんとかそれらしい形になる。

「その姿勢でとりあえず適当に弦を押えて弾いてみろ」
怖々と一本弾いてみると、澄んだきれいな音がした。

わ…あ……!

「すごい!感動で…」
視線を上げてリヴァイさんの方を見ると、あと少しでキスしそうなほど顔が近くて、言葉も動きも止まってしまった。

顔にぶわわっと熱が集まる。
きっとまた真っ赤だ。


慌ててギターに向き直って、教えを請うた。
「あっあの、全部の指を動かして弾くやつ、どうやってるんですか?」
「…ああ、それは指ごとに担当の弦を決めて、親指で弾いた後人差し指と中指を交互に使う。薬指を使ってもいいが、はじめは3本で」
「は、はい」

やってみるけど、うまくできない。
軽くパニックだ。

「落ち着け。この順だ。1、2、3、2、3…」
右手の上にリヴァイさんの右手を重ねられて、順番にぐいと押される。
今までにないくらい耳元で声がして、触れられている手も、耳も、すごく熱い。
こんなに近くちゃ、赤い顔を隠すことすらできやしない。


「……エレン」
熱にくらくらしていたら、かつてのような熱のこもった声で呼ばれた気がした。
響きを、耳が覚えている。

ついと顎を取られ、気がついたらキスを、していた。

懐かしいこの感覚。
兵長の声、兵長の唇。
軽く重ねられるだけのそれに、長いこと待ち望んでいたものに、鼻の奥がツンとなる。


───もしかして、記憶が…戻った?

唇がゆっくりと離され、伏せられていた瞳が覗く。
「へい、ちょう…?」
今生で初めて、期待を込めて、かつての呼び名をその人に向けた。



けれど次の瞬間、硬い表情に変わったのを見て悟る。
全身から血の気が引くのがわかった。

「……あ…あ………す、すみ、ませ……」
膝の上のギターを押しつけるようにして返し、逃げるようにその場を去る。

間違えた、間違えた、間違えた!
そもそもなんでキスされたのかとか、失礼なことをしたことはわかるけど、何をどう解決したらいいかとかぜんぜん考えられなかった。
次どんな顔して会いに行けばいいかのもわからない。



仕事場に戻って、作業中だったアルミンに飛びつく。
アルミンは混乱して泣くばかりの俺を落ち着くまで慰めてくれた。
傍らで鬼の形相になっているミカサまでなだめてくれている。

ムリ言って時間もらってるのにごめん、迷惑かけてごめん、理由もちゃんと話せなくてごめん。
もう少し頭の中が整理できたら、その時は相談に乗ってもらおう。


リヴァイさんと違って頭を撫でてあやしてくれたことにも、俺は救われていた。
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