リヴァエレ本

□やさしいうた4 リヴァエレ 
2ページ/4ページ


・・・・・・・・・

あれから1週間が過ぎ、俺の心は随分と落ち着いていた。
まずはきちんと謝って…状況が許せば、少しづつ説明していけばいい。
そしてどうして俺にキスしたのか…記憶のないリヴァイさんにも、俺への気持ちが少しでもあるのか、ちゃんと聞くんだ。


いつもの場所に向かおうと玄関で靴を履いていると、ドアの前にミカサが立ちはだかった。
一向にどく様子のないミカサに、しびれを切らす。
「ミカサ、頼むからそこをどいてくれ」
「だめ、行かせない」

先週、リヴァイさんに制裁をと言って聞かないミカサをアルミンが何とか押しとどめてくれたけど、今はアニメスタッフとの打ち合わせだとかで家にいない。
俺が何とかするしかなかった。
靴を履いて立ち上がり、ミカサと目線を合わせて頼み込む。


「1週間に一度しか会えないんだ、ちゃんと謝りたいんだ。頼むよ」
「あいつは2度もエレンを泣かせた。エレンがあいつに会うことが幸せとは思えない」
「それはリヴァイさんに事情を話してないからで…」
「今日会って話せるの?また、あの時みたいに白い目で見られたくないんでしょう?年末進行で仕事が押している。テストもあったし、予定より進んでいない。また泣いて帰ってきたら、進行に差し障る」

痛いところをズバズバつかれ、口ごもってしまう。
リヴァイさんとの時間は30分程度だけど、先週帰宅した日はしばらく使い物にならなかったし、その上アルミンやミカサの予定まで狂わせてしまった。

親からマンガ家になるための条件として学業をおろそかにしない事を提示されていて、編集からは俺たちが作者であることを公にしないよう言い含められている。
そんな中での日々の作業時間は平日であれば5時間がいいところだ。

遅れた分は土日で取り返す、それが俺たちのルールだったが、各方面との調整が入るのも土日が多く、俺たちは常に時間に追われていた。
後々、自分の首を絞めることになるかもしれない。
それでも俺は───


「少しだけでいいから……会いたいんだ」


しばし沈黙が続いたのち、ミカサは小さくため息をつくと「わかった」とつぶやいた。
「ただし、今やっているカラーを終わらせてから行くこと。手を抜いたりしたら取り消す」
「わかった!ありがとうミカサ!」

放り出すように靴を脱ぎ捨て、作業机に向かう。
リヴァイさんがいつも何時まで弾いているのかわからないけれど、ご近所のことを考えると
どんなに遅くとも10時までには終えるだろう。

今は8時少し前。
目の前にあるカラーは仕上げるのに2時間くらいかかる。
…ギリギリ、会えるか会えないか。
一縷の望みをかけて、俺は作業に集中することにした。



1時間半で仕上げ、大慌てで駅に向かう。
次にくる電車をじりじりと待って、結局いつもの場所に着いたのは10時を回ろうかという頃だった。
息を切らして周囲を確認するが、リヴァイさんの姿はない。
間に合わなかった。

…間に合わなかった……


俯いた先の地面にぽたりと涙が落ちる。
ああ、また泣いてしまった。
これじゃまたミカサに怒られる。
慌てて袖口で拭っていると、後ろからいたわるように声をかけられた。

「エレン、大丈夫か」
振り返るとそこには見知った顔があった。
「グンタさん、エルドさん!」
どうしてここに、なんて愚問だ。
きっと兵長のギターを聞きに来ていたんだろう。

「エレン惜しかったなあ、さっきまで兵長ここにいたんだが…」
「そうですか…」
よりにもよってニアミス…しょぼくれてまたじわりと涙がにじむ。
「泣くなよ。来週また会えばいいだろ?」
「な、泣いてませんよ!」
ばればれの嘘で強がっていると、突然横から地を這うような声がした。


「おいおまえら。こいつに何の用だ」
「リヴァイさん!!」
会いたいと願った人は、ものすごい形相でグンタさんとエルドさんを睨みつけていた。

まさしくそれは兵長の眼光。
久々の鋭い視線に、俺は思わずときめいてしまう。
グンタさんたちですら、近づいてくるリヴァイさんに敬礼していた。

「おい、何とか言ったらどうだ」
リヴァイさんは俺の前に割って入ると、さらにドスをきかせ始めた。
……これはもしかして、俺絡まれてたとか誤解されてるのか?

「リヴァイさん、この人たちは俺の知り合いですよ!」
というかむしろあなたのかつての部下ですよ!!
悪い人たちじゃないですと必死に説明すると、どうにか誤解もとけたようだった。


リヴァイさんは2人の顔をあらためて見るや眉を顰め、呆れたように俺にこぼす。
「おいエレンおまえ…死に役を知り合いにあてるとかどうなんだ」

えっと………本、読まれたんですね。
グンタさんとエルドさんが顔を見合わせて苦笑いしている。
俺も、まあこれが普通の発想だよなと納得し、いい機会かと打ち明けることにした。

「あれは全部、過去実際に起きた話ですよ」
グンタさんが慌てて止めようとするのを、軽く笑んで諌める。

「俺たちは昔、あの話の通りに生きて、今ここに生まれ変わって過ごしているんです。
 リヴァイさん、あなたも」


もちろん、現在の人口比率を考えれば一部の人間だし、記憶のない者もいる。
俺と直接かかわりのない者の人生はわからない。
それでも、あの本は今生の史実にない俺たちの歴史だった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ