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軽く唇を触れ合わせ、離す。
瞼を開ければ至近距離で目があい、どちらからともなく再び唇を重ねた。
後頭部に手を差し込まれ、ぐいとのしかかられるようにされれば、誘うように唇が開いた。
舌を差し入れ絡め合い、より深くつながるように互いの顔をずらす。
熱のこもった口づけに、じんわりと覚えのある感覚が股間に集まる。
ここが誰に見られるともしれない外だとか、この先どうしたらいいかなんて何も考えられなかった。
ガランという物音が間近でして我に返る。
「…悪い」
それはリヴァイさんも同じだったようで、唐突に唇が離された。
「…いえ…。あの、大丈夫でしょうか」
音の正体はギターが地面に落ちた音だったようだ。
リヴァイさんはそれを拾い上げて大丈夫だと告げると立ち上がり、送ると小さく呟いた。
ギターをケースにしまい、歩き出すリヴァイさんに倣ってその後をついていく。
さっきのキスが、この間みたいな思わずというものでないことはわかる。
その前に歌ってもらった曲も、なんだかすごく、気持ちが込められていたように思う。
ただキスしたかっただけなのかな、それとももっとそれ以上の意味を持たせてもいいのかな。
もう一度、尋ねてもいいのかな。
もっと英語がわかれば、どんな思いでリヴァイさんが歌っているのかわかるのに。
迷ってるうちにリヴァイさんの家に着き、促されるまま車に乗り込む。
車内に、きれいで少し物悲しいピアノとバイオリンの旋律が流れる。
こんな曲も聞くんだなとぼんやり窓の外を眺めていると、リヴァイさんが映画、と呟いた。
「映画、いつがいい」
「あ…っ、来週の締め切り後でしたら俺はいつでも…」
「とはいっても、締め切り直後ではつらいだろう。再来週の土曜にするか?」
俺は、リヴァイさんに映画を誘われた時から、できればと考えていた日があった。
さすがにおこがましいか、もしかしたらすでに予定があるかも…と思いつつ、ダメもとで聞くだけ聞いてみる。
「あの、もしご都合が悪くなければ…24日か25日に、お願いできないでしょうか」
「…かまわない」
「ほ、ほんとうですか!」
思いがけず色よい返事が聞けて目が輝いてしまう。
曲の転調ですら、俺の気分に合わせたかのように感じる。
「年末の平日だからな、仕事の都合で遅くなるかもしれないが…よければ飯も食おう」
「は…はい!」
どうしよう、うれしすぎて口元が緩むのを止められない。
ただ予定が空いていただけかもしれないけれど、週一回会うだけの同性の子供とクリスマスや、たぶん誕生日を一緒に過ごしてもらえるってことは、少しは期待してもいいってことなんだろうか。
「あの、さきほどの歌には、キス以上の意味が、あったりしますか…」
「おまえの想像に任せる」
どうとっていいかわからず、次いで質問を重ねる。
「すみません。ではあの、歌詞の、意味を…」
いつの間にか自宅前に着いていた車が停車し、こちらを向いたリヴァイさんが俺の言葉にかぶせるように告げた。
「エレン。題名だけ教えておく。RENTという映画の、I'll cover youという歌だ。
歌詞を調べるのは、締め切りを過ぎてからにしろ。いいな」
先週のように手を取られ、きゅと握られる。
そして「ムリはするなよ」と手の甲に唇を近づけ…触れる直前で、俺を目にとめたまま薄く笑った。
「ただいま!」
俺は仕事場にかけ戻り、机の上のメモに大きく『レント、アイルカバーユー』と記して貼り付けると、さっそく残していた作業に取り掛かった。
「…エレン、今週もすごいやる気だね…」
「まあな!22日と言わず、さっさと終わらせてやる」
俺の意気込みにアルミンが気圧されたようにこちらにやってくる。
「そうとうすごい激励をもらったんだね。ん?…これ何?」
メモを手に取るアルミンから奪い返し、俺は赤くなる顔をそのままに言った。
「仕事がはかどる、おまじないだ」