企画小説置き場

□調子にのりました
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ある晴れた日の昼下がり、社食で日替わり定食に舌鼓を打っていると隣で食べていた同期がおもむろに口を開いた。
「なあエレン、おまえ気づいてなかったりする?」
ここ、と言って示されたのはうなじの、髪の生え際に近いところだ。
「はじめに見た時は虫刺されかなとか思ったんだけどよ、ずっとだもんな〜。消えそうになったら新しいとこにまたついてる。自分じゃ見えず、他人に見える位置にキスマークつけるやつって嫉妬深いらしいぜ。えらいのに捕まったな。」
からかうように笑う友人の言葉に、俺は薄く笑って返した。
「何おまえ、もしかして知ってて晒してんの?」
「かわいいだろ?」
「うわ〜!言わなきゃよかった!」

もはや暗黙の了解になっているのか、気づいている人が少ないだけか、こうして面と向かって指摘される機会はあまりない。
どうせならもっと人のいるところで声かけてくれればよかったのに。
自分から言って回る気はないけれど、この冬にようやく一線超えたばかりで俺だってたまには惚気たい。
ちょうど周りに人のいないタイミングを狙ったのは同期の気遣いだろうけれど、今は逆にそれが煩わしかった。

「なあ、じゃあやっぱ難しいか?」
何の話だよと問えば、以前誘われていたスノボ旅行の話だった。
断ったじゃんと返せば、箸を持ったまま拝み倒される。
「頼むよ、女の子たちの参加率低いんだって」
「さっき俺んとこが互いにべた惚れだって確認したとこじゃねえか」
「エレンが来ればおまえの担当の子も来るっていうし、その子が来たらウチの部の新人も来るって言うんだよ〜これを機にお近づきになりたいしさ」
俺は芋のつるかとげんなりして皿の上のフライに手を伸ばす。
俺がチューターを担当している新人は彼氏持ちで、この手の集まりには俺同様あまり参加していない。
職場内で浮いてる様子もないし気にはしていなかったけれど、もうすぐ下の年代が入ってくることだし、たまには参加しとくべきか?
そういやリヴァイさんと雪山行ったことなかったなと思い返し、軽やかに滑るリヴァイさんを想像して箸が止まった。
「…弟と一緒ならいいけど」
「マジで!…え、てかなんで弟?」
「今親が家にいないんだよ」
「…まあ彼女連れてこられるよりましか」
言っとくけど弟の許可が得られたらだからな、と念を押し今度こそフライにかぶりついた。



「ひあっ!や、あっ…ぁあ…っ」
後ろから抱き込み、空イきしたばかりの敏感なナカを抉る。
「ふやぁあ…っえれ、えれんん…」
引き絞られるような感覚とともに甘くねだるような声が鼓膜に届き、俺の質量がぐんと増す。
ぬちぬちと水音を響かせて、張りつめたそれでいいところを擦った。
「…っ、…イき、そ…っ、…リヴァイは?」
「うん、うんっ!また…や、ひあぁっ……」
そうして再び身を逸らし震えるナカを、俺が絶頂を迎えるまで突き込んだ。

腕の中でくったりと脱力する小さな体にちうちうとキスの雨を降らす。
「ねえリヴァイさん?」
睦言みたいに囁けば、うっすらと瞳が開いた。
アッシュグレイの瞳は過ぎた快感のせいで薄い膜が張り、いつもよりさらにきれいに映る。
「今度職場で一泊二日のスノボ旅行いこうって話が出てるんですけど、ちょうど春休みだし一緒に行きません?」
「すのぼ?」
まだぼんやりとした目が俺を捉え、たどたどしく繰り返した。
「うん。こないだテレビで見たでしょ?競技種目で」
「…あれか」
「さすがにあんなスゴ技はしないけど、ただ滑るだけでも風を感じて気持ちいいよ」
「エレンが行くのは決定なのか?」
リヴァイさんが行くならと答えれば、俺の目をじっと見つめた後、じゃあ行くと返ってきた。


そうして迎えた旅行日当日。
先輩4名、後輩2名、同期2名+リヴァイのメンツで、総勢9名が集まった。
「え〜っ10歳?!ちっちゃい!かわいい〜!!」
「お名前なんて言うの?」
集合場所に着いたとたん女性陣に囲まれ、リヴァイは少し警戒しつつ小さく答えた。
「…リヴァイ」
あまり騒がれるのが好きでないために、名乗るだけ名乗って俺の影に隠れてしまう。
だけど緊張や照れからくるものだと思ったらしい女性陣にはその反応すら好評だったようだ。
「「「「かわいい〜〜〜〜!!」」」」
ですよねですよね、と心の内で激しく同意する。
「2人はそんな似てないんだね。エレンがわんこ系なら、弟くんはにゃんこ系って感じ?」
「ちょ、先輩やめてくださいよ。野郎捕まえてわんこだなんて…」
リヴァイさんが聞いてるんですよ、頼むから俺の培ってきた『できる大人像』崩さないでくださいよ。

内心食って掛かりそうになっていると、俺の担当している子のケータイが鳴り出した。
取り出すや否や固い表情になったところで、ふつりと着信音が途切れてしまう。
「どしたの?」
「ここしばらく、いたずら電話が多いんです。無言だったりすぐ切れたりするだけなんですけど、なんだか気味が悪くて…」
奥ゆかしい、女性らしいタイプの子だ。
妬みを買うようには見えないから、変なやつにでも目をつけられたかな。
警察には相談したそうだし、彼氏持ちだからでしゃばる必要はないだろうけど。
「何かあったら遠慮せずに言いな。抱え込むより楽だろうし、手伝えることもあるかもしれないし」
そう言ってやると安心したように顔をほころばせた。

…俺の後ろでリヴァイさんが人知れず不穏な空気を放っていたのだけれど。


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