企画小説置き場

□調子にのりました
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目的地へは2台の車に分かれて向かうことになり、俺たちは同期の車に乗ることになった。
リヴァイが俺の手を引き率先して助手席に乗り込もうとするのを、同乗する後輩たちに止められる。
後部座席のが広いと勧められたが、リヴァイが人見知りするのでと断った。
「先輩が間に座ってみるのはどうですか?」
「…お膝に乗るから平気」
ぽそりと呟き俺を助手席に押し込むと、膝の上にちょこんと腰を下ろした。
この光景は珍しいものじゃないけど、お膝って…リヴァイさんあなた、お膝って…!
物慣れない響きにひとり打ち震えている間に、後ろから質問が飛び交い始める。
「リヴァイくんはふだん先輩のことなんて呼んでるの?」
「エレン…にい」
エレンにい…!?
ちょ、そんなの呼ばれたこともないんですけど。
連続して繰り出されるジャブの思わぬ破壊力に、俺は動揺を隠せない。
「お兄さんはお家でも優しい?」
「…よく怒る。それに時々いじわるする」
まあ、間違ってはいないが。
でもこういう時嘘でも優しいとか答えるものじゃないのだろうか。
「意外。普段すごく優しいのに」
「もしかして先輩、隠れSですか?」
「怒るとしばらく口きいてくれないし…叩かれたこともある」
「え〜!先輩手が出るタイプなんですか?」
ちょっとちょっとリヴァイさん、いくら何でも言いすぎですよ。
そりゃお尻叩いたこともあるし、事実であることは認めますけども。
「…躾の一環で必要ならするよ」
「「しつけだって!きゃ〜!!」」
意趣返しのつもりでかつてのリヴァイさんの言葉を模して答えれば、なぜだか後輩たちは嬉しそうにはしゃいだ。

「…エレンにい、恋人いるぞ」
そんな中ぼそりと呟かれたリヴァイの言葉に、またも騒然となる。
「お、こいつの彼女見たことあるんだ?どんな子?」
ここぞとばかりにノリノリになった同期に便乗すんなと視線を送ったところで、膝の上のリヴァイさんが小さく答えた。
「……ある。美人で、かわいい…」
車内がいっそう騒がしくなったが、俺にはそれが遠くの喧騒に聞こえる。
だって髪の合間から見える耳が赤い。
この一連の流れ、もしかして牽制のつもりだったの?
女の子たちが俺の方を向かないようにって?
もうかわいくって仕方がない。

自分で言って耐えきれなくなったのか赤く染まった顔を隠すためか、リヴァイさんは俺の胸元に縋りつくようにして、もう寝ると呟いた。
「ごめんね、リヴァイ昨日あんまり寝つけなかったみたいで」
そう言って後輩たちに頼んで声のトーンを落としてもらう。
その後も後輩たちから俺に話が振られたけれど、そのたびにリヴァイさんはそれとわからないよう俺の服をくいと引っ張った。
俺もそれに答えるように、時折あやしたり口元を緩めたりして。
「おまえものすっごいブラコンじゃん。そんなだと彼女との衝突も多いんじゃね?」
呆れたように零す同期に、ノーコメントでと答えると、そいつは都合よく解釈してくれたようだった。



そうして数時間車を走らせ、宿泊予定のロッジに到着した。
こじんまりとはしているが歩いていける距離にゲレンデがあり、なかなかいい立地だ。
ロッジに荷物を置き、各々のウェアに着替える。
俺は手持ちのセットを、リヴァイは買わなくていいと断られたのでレンタルだ。
子供用の上下黄色のウェアが目にまぶしく、だぼついた袖口や丈がとってもかわいい。
カメラにぱちぱち収め、俺にひっついているところも撮ってもらった。
後輩たちとリヴァイさんが初心者だったので、少しの間みんなで教え合う。
思いのほか一番上達が遅いのはリヴァイさんだった。
基礎はできているのに、スピードが出ない。

小鹿のようにぷるぷるよたよた進んでは、ぽてっと尻もちをついている。
そしてすぐにむくりと起き上り、またぷるぷる進むのだ。
ちょっ……かわっ、かわ…っ!!
そうして速度のない滑りでそよそよとやってきて、俺の腕の中にまふっとおさまった。
…くそう…かわいすぎるでしょ…っ!
「リヴァイさん?えらくかわいらしいことになってますけど」
自然に見えるようにきゅうと抱き留め耳元で囁けば、腕の中でじとりと睨まれた。
「うるせえ。何でも器用にこなせると思うな」
リヴァイさんに限って思い切りがよくないとは思えないから、これもわざとなんだろうけれど。

不器用なリヴァイさんなりの作戦…と思わしきものに乗り、みんなには先に行ってもらって2人でゆっくり降りた。
少しだけ手本を見せるように滑って、リヴァイさんのよたよた滑りをカメラに収め堪能する。
待ってる間に近くで転んでる子を起こしてあげたら一緒に滑ってほしいと誘われたりしたけど、その度リヴァイがこれ俺のアピールで応戦してくれた。
俺もきゅうとしがみつくリヴァイさんを抱きしめて、連れがいるからごめんねと断ってみたり。
何度目かの周回遅れの際に先輩が付き添い交代を申し出てくれたのも断り、2人仲良く過ごす。
あいかわらずよたよただけどS字が切れるようになり、職員との旅行でこれじゃさすがにまずいかなと思い始めたところに、担当してる後輩が滑り降りてきた。
「あ、せんぱ〜い!リヴァイくーん!」
側までやってきて危なげながらもどうにか止まる。
エッジの効きはまだ少し弱いけど、初めてとは思えないくらいの上達ぶりだ。
「すごいな、だいぶ滑れるようになったね」
「ありがとうございます。リヴァイくんもS字できるようになったんだね」
にこにこと笑顔を向ける後輩に小さく会釈を返す。
「あれ、一人で滑ってんの?」
「先輩たちは上級者コースに行かれました。あの二人は、少し二人きりにさせた方がいいかなと思って」
あ、やっぱ同期の狙いはバレバレか。
2人で顔を見合わせて笑い合っていると、腰にリヴァイが巻きついてきた。
「リヴァイくん、私もご一緒していい?」
俺に隠れるようにして見上げていたリヴァイが、少し間を置いてこくんと頷いた。
先に滑っていく後輩を見送りながら、隣でじと目をしているリヴァイに声をかける。
「リヴァイ、なんでそんな警戒してんの。する必要ないよ」
「そんなことない」
「あの子彼氏いるよ?」
「彼氏持ちだろうが関係ないやつもいる」
「思い過ごしだってば。そんな子じゃないよ」
「…てめえの判断はあてにならねえ」
ひど…っ!
ぶすくれた表情ではあったけれど、それでも俺の顔を立ててくれているようだった。
うまくブレーキが効かせられないと話す後輩に、動きを見てやりながらアドバイスをしていく。
「思い切って膝を落としてごらん。コントロールしやすくなるから」
「こんな感じですか?…ひゃっ」
体勢を崩した拍子に後輩が俺の方に倒れ込み、支えるつもりが抱きしめる風になってしまった。
すぐに離れはしたが、たぶんこれがよくなかったんだろう。
リヴァイさんの機嫌が急降下した。

小腹を満たしに入った店ではケチャップを塗りたくったフランクフルトを持ったまま後輩のウェアに突進していったし、後輩のボードの上に乗り上げて板に傷をつけるしと、どこの小姑かと言わんばかりのいびりっぷりだ。
挙句の果てには滑り降りてくる後輩の進路を邪魔したものだから、避けようとした後輩が変な転び方をした。
慌てて駆け寄り怪我がないことを確かめる。
安堵で大きく息を吐いたのち、今度は俺の方が爆発した。
「リヴァイ!!」
びくりと身をすくめ、小さく謝る。
「怪我したらどうするつもりだったんだ、危ないことくらい考えればわかるだろ」
「せ、せんぱい、私がうまく避けれなかっただけですから…」
後輩が庇おうとするのを、甘やかすとためにならないと制す。
「しばらくひとりで滑って」
「…まだうまく滑れない」
「十分ですよ。リフトにも乗れるし、S字だって切れるでしょ」
リヴァイは青い顔で怯えたように小さくなっている。
後輩がおろおろとしていたが、反省してくださいと言い残し後輩を連れて山を下りた。
一所懸命な牽制ややきもちはかわいいものだけど、だからといって見境のない行動をして良いわけじゃない。
頬にあたる風は冷たく、リヴァイと…できれば俺の頭も早く冷えることを願った。


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