企画小説置き場

□素直になれないおとなたちの<前>
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「君は我が兵団が常に資金不足であることを知っているかな」
「…っ、はい。存じております」
「それならば話が早い。折り入って頼みがあるんだが…」
そう言ってエルヴィン団長は顔の前で手を組むと薄く微笑んだ。
「写真を撮らせてほしいんだ。君のいやらしい写真をね」



素直になれないおとなたちの



「…いいのか」
団長の執務室から帰る道すがら、少し前を歩く兵長が俺に問いかけた。
「?何がですか?」
「見世物にされることだよ」
いつもより少し眉間にしわを寄せこちらをちらりと見やる。
その、団長の意向に異を唱えるかのような兵長の様子に、俺は思わず何度か目をしばたかせた。

「写真の買い手は裕福な女性たちとのことですし…俺は兵団に心臓を捧げた身です。資金面でお手伝いできるなら何だろうと受け容れます」
「何だろうと、ね…。エルヴィンの話していた意味がわからねえわけじゃねえよな?」
「…それくらい俺だって理解してますよ。必要な経費が足りなくて、万全策が取れずに誰かを無駄に死なせたりする方が、俺は嫌です」
自分自身の考えをありのままに伝えれば、兵長は小さく息をついたようだった。

「てめえ、女とヤったことはあるのか。もしくは男と」
「へ、兵長!?」
誰が通るとも知れない往来で、いきなり何を言い出すんだこの人は。
驚きすぎて足が止まり、思わず周りに人がいないか確かめてしまった。
数歩先で兵長も歩みを止め、こちらに向き直る。
鉛色の静かな目で見据えられて、ほんの少し気まずく感じて視線をずらす。
「…あるわけないですよ」
「先に娼館でも行くか」
「は、はあ?!行きませんよっ」
「惚れた相手でもいるのか」
「なっ、そんな奴いません!この状況下で恋だの愛だのにうつつを抜かしていられるほど、俺は青くないです」
尊敬する上司に、そんな浮ついた野郎だと思われたことが悔しい。
言外に棘が入ってしまったかもしれないが、隠す気はなかった。
しばし探るような目が俺を捉えたのち、今度は兵長の方からふいと逸らされる。
「…そうか。まあ、ならいい」
行くぞと促され、先を歩く。
不器用な、兵長なりの気遣いを温かく感じ、離れた距離分を埋めるように歩を進めた。



撮影が予定されていたその日、兵団服に身を包んだ団長が兵長を伴って俺の部屋を訪れた。
俺も兵団服での待機を命じられていたから、入浴後にもかかわらずベルトも装着したままだ。
増やされた明かりで薄暗い地下室がいつもより煌々と照らされる。
直立して指示を待つ中、ぎしりと音を立て簡素なベッドに団長の大柄な体が沈んだ。

「慣れなくて少し恥ずかしいかもしれないが、心配しなくてもいい。際どいところは撮らないからね」
「…っ、はい!」
促されるままベッドの上に座り、緊張でこわばる体を背後から団長に抱き留められた。
「っ!」
背中越しにふわりとコロンが香る。
大きな体にすっぽりと包まれてなんだか懐かしいような気恥ずかしいような、そんな気分だ。
膝の上に置いた掌にはすでにじんわりと汗をかいていて、わずかに開いたり握ったりを繰り返した。
どこに向ければいいのかわからず彷徨わせた視線を、目前の兵長に向ける。
兵長はカメラ片手に、壁に軽く体を預けて俺を見ていた。
その眼は未だどこか納得していないような様子を漂わせていて、ほんの少しだけれど心が落ち着いた気がした。


大きく温かな掌が俺の太腿に触れる。
じんわりとした熱がゆるゆると移動し、俺の中心を服の上から撫でた。
「あ…っ」
思わず出てしまった声を抑えるように、片手をあてる。
カチャカチャとベルトを外され、緊張で萎えたままのそれを取り出された。
俺の視線の下、全体を掌に包まれ揉みこむように力を加えられていく。
「人に触られるのは初めて?」
「はい…」

触られるどころか人前にこんな姿を晒すのだって初めてだ。
もともと淡白な方で自慰の機会も少なく、大人の手慣れた動きに翻弄される。
弄られるたびに膝頭が小さくはねてそこが形を成していく。
小さく漏れ出る声をどうにか押し殺して、快感を逸らすようにもう一方の拳を強く握った。
「エレン、膝を閉じるな」
「すみません…っ」
兵長からの指示に慌てて膝を左右に開くが、刺激に震えた拍子に自然と膝がゆらゆら動いてしまう。
小さな舌打ちが聞こえて、俺はすぐに片手を自分の膝裏に添えて広げた。

「イイところを教えてくれるかな」
「…ぜんぶ、…ぜんぶ、気持ちい…です…、ぁあっ!」
先走りの滲む先端を撫でつけられ、刺激に身を逸らす。
ぎゅうと瞼を閉じ、団長の肩口に後頭部を押しつける形になったところで、一度目のシャッターが切られた。


撮られた。
覚悟して臨んだことだけど、実際にされるとなるとやはり恥ずかしくて顔に熱がこもる。
赤くなった顔を隠すように手をずらすと、隠すんじゃねえと一喝された。

「エレン、エルヴィンの腕を掴め」
指示されるまま、団長の肩口と俺の性器を弄る腕を軽く掴む。
外した手の代わりにと団長の足に絡めとられ、膝が閉じないように固定される。
「それから目線だが…」
すいと兵長が片手を腰元まで下ろし、ある一点でパチンと指を鳴らした。
「──ここだ」
音につられて自然とそこに向かう。
軽く伏せたような目元になるのを図っていたように、無機質なシャッター音が響いた。

そうしているうちにも股間はすでにぬちぬちと音を立てていて、いつの間にかはわされたもう片方の手は服の上から俺の乳首を弄っていた。
服の繊維で擦られ、経験したことのない感覚が腹にたまっていく。
上ずったような声が漏れそうになり、慌てて口元を強く引き結ぶ。
「ふ……っ、…んく…っ」
「口は閉じるんじゃねえ」
「ん……は、い…っ、んあ!ァアッ!…っこえ…すみません、俺…っ」
「かまわないよ」
可愛い嬌声だと耳元に零され、唇を噛みそうになるのをどうにかこらえる。
緩めたままの口からは耳をふさぎたくなるような声と吐息が漏れて、せめて手を自由にさせてほしいと頼んだが一蹴された。

ぐいとたくし上げられた服が胸元のベルトに引っかかり、荒く息をつき上下する胸が露わになる。
「…きれいなピンク色だ」
「!ひうッ…っエルヴィン、だんちょうっ」
直に乳首をこね回すようにされて体が跳ねる。
服越しもヤバかったが、直はもっとダメだ。
腕を掴む手に力が入りすぎてぶるぶる震えてしまう。
「感度もいいね」
くすりと笑うのを耳が拾って、羞恥にじわりと涙が滲んだ。

「エレン。次はカメラを見ろ」
新たな指示にいったんはそちらに視線を映したが、遮るものをなくし、情けなく赤く染まった顔を長くは向けていられなかった。
名を呼ばれもう一度視線を向けようと試みるがやはりすぐに視線が落ちてしまう。
全部納得の上で引き受けたっていうのに、俺はこんなことすら満足にできないのか。

「っすみません…」
「…別に、中止したっていいんだぞ」
うまくできない自分を恥じて詫びると、なんてことないような風に返される。
それは嫌だ。
俺にできることで兵団の資金が潤うならという思いは嘘じゃない。
首を横に振れば、兵長がふんと鼻を鳴らす音が聞こえた。

「レンズではなく、リヴァイの目を見てごらん」
団長の助言をもとに、今度は兵長の目に視線を合わせた。
これだって十分に恥ずかしいけれど、俺の目が逸れることはなかった。
…というより、逸らせなかったが正しい。

澄んだシルバーグレイが俺を見据える。
その温度まで感じられそうなほど冷えた目をしているのに、その眼に見られていると思うだけでじりじりと肌が焼けつくように熱くなる。
「まあ…その顔は悪くないな」

それはいったいどんな顔ですか。
尋ねる間をおかず、パシャリと新たなフィルムに焼きつけられた。


「少し腰を浮かせてくれるかい?」
震える体をなんとか叱咤させれば、下着ごと一気に引き抜かれる。
これで俺の肌を覆うのはジャケットとたくし上げられたシャツだけになった。
それも鎖骨付近までしか覆えておらず、ほとんど意味をなさない。
再び足を絡めとられて広げられた下肢は、尻の穴までさらけ出していた。
それを、依然冷やかなままの兵長に見られている。

頭の中で目的を反芻していないと、ここから逃げ出してしまいかねなかった。

性器を弄っていた団長の手がゆっくりとその下に向かう。
玉の裏をかいくぐって太い指がそこに触れた瞬間、俺の体が比喩でなく飛び跳ねた。
男同士でするときはそこを使うってのはそういうことに興味のない俺でも知っている話で、撮影にはそれも含まれるんだろうと覚悟はしていた。
事前に風呂場で中をきれいにしてすらいたのに。
実際に他人に触れられると居たたまれないなんてもんじゃない。

「今度はこっちを弄ってあげたいんだが、手が足りなくてね。…自分で擦れるね?」
そう言って団長の腕を掴んでいた手を取られ、濡れそぼつ性器へと導かれる。
「は、い…。あッ、…くぅ……ん」
乳首を弄られ、ぬるぬると穴の周りに先走りを塗りつけられながら、自分のを扱いていく。
自分の姿を想像するだけで顔から火が出そうだ。

「?少し柔らかい。自分で弄ったのかな」
「その…来られる前に、洗っておきました」
「そう。…いい子だ」
ぷちゅりと音を立てて指が侵入され、思わず全身がこわばる。
先走りを掬い取られては尻に塗りたくられ、慎重に押し入れられていく。
紛らわせようと必死に前を弄るが、自分はこれまでどうやって弄っていたのか思い出せない。
ただ不器用に前後に擦るしかできなくて、前に集中できるはずがなかった。

しばらくの間はただ違和感しかなかったのに、ある一点を弄られて変な声が出た。
「ひあッ!……え……な、なに…」
聞いたことはある。
男はケツの中に感じる箇所があるって。
でもこんなにすごいものだとは思ってもみなかった。
「っ!!……だめ、です…っ!…そこぉっ」
電流を直接流し込まれたみたいに自分の体が言うことを聞かない。
女みたいに高い声をまき散らして、独りでにそこをぎゅうぎゅう締めつけてしまう。
身をよじって逃げようとするのに、後ろからがっちり囲われてそれも叶わなかった。
「だんちょ…、エルヴィン、だんちょうっ!やっ!やだ!……ん、あぁあっ!」
ほとんど手を添えていただけの性器からびゅくびゅくと白濁がはじけ飛ぶ。
自慰でイく時とは比べ物にならない快感に、頭が真っ白になる。

「はー…はぁー…、…っは…」
脱力し身を預ける俺のケツから団長は指をゆっくりと引き抜く。
霞がかかったような頭にシャッター音が遠く響いた。

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