私を酔わせて

□一抹の勇気
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そろそろ帰ろう、という声がどこからとなく上がる

どくん、と動悸がする

意を決して口を開く

『あの、3人にお願いがあるんですが……』






******************



彼がレジの前にいるのを確認して伝票を握る

お金を自分に払わせて欲しい、

という申し出は一旦は断られた

でも、彼にお礼を言うチャンスは

これがきっと最後になるだろう

彼にきちんとお礼を言いたいのと、

3人にもお礼がしたい、という旨を伝えると

3人は背中を押してくれた

一緒に行こうか、とも言ってくれたが

きっと誰かが傍にいると頼ってしまうだろう

私は自分の言葉でお礼がしたいと断った

3人はカフェの外から固唾を飲んで見守っている

呼吸を落ち着かせてレジへ向かう

『お会計……お願いします』

伝票を震える手で渡す

レジで表示された分だけ財布から

お金を出し、彼に渡す

たったそれだけのことなのに、

ぐるぐると眩暈がしそうだ

レシートが手渡される

チャンスは今しかない

グッと拳を握る

『……あ、のっ!』

声が上擦ったまま、続ける

『ナンパから、助けてくれて、本当に助かりました、
でも、私、失礼な態度しか、とれなくて、すみませんでした!
あの、嬉しかったです、ありがとうございました!
それと、えっと、サンドイッチ、おいしかった、です……』

最後の方は尻窄みしてほとんど聞こえなかっただろう

「役に立てて良かったです」

全速力で走った後みたいに息を吐く私に

かけられた声に顔をあげて

私は初めて彼の顔を見た

褐色の肌に明るい髪色、人の良さそうな笑顔に

私は更に顔に熱が集まるのを感じた

慌てて前屈をするような勢いでお辞儀をすると

多少駆け足で店のドアから出ていった

店から出るとすぐに3人が声をかけてくれた

「やった!やったじゃん早乙女さん!」

鈴木さんが私の両手を持ってぴょんぴょんと跳ねる

「本当によくやったよ!」

世良さんもわしゃわしゃと髪を掻き乱す

そんな2人を落ち着かせながらも

毛利さんも嬉しそうに笑いかける

(顔、まだ熱い…………)

火照る頬に思わず手を当てる

その当てた手まで熱い

のぼせたような気分のまま

明日、学校で!と約束をして

それぞれ帰路についた
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