鳥籠の闇、竜の鍵

□いざ、旅立ち
1ページ/5ページ


「……?…」


気付けば私は、見慣れない場所に立っていた。

周りには、ドレスなどで着飾ったたくさんの人。


…パーティー、かな。

多くの人が行き交う中で、私はお父さんに手を引かれて歩いていた。


人が…いっぱいいる。

ただそれだけで、私は純粋に楽しいと感じた。


…そんな時だった。


「え…?」

突然、部屋の照明が落ちた。


何も見えない…

繋がれた手がギュッと握りしめられる。


騒然とする室内に、どこからか悲鳴が響いた。


パニックになった会場の中の1人が私たちにぶつかって…

同時に、繋いでいたお父さんの手が離れてしまった。


私を呼ぶ声がする。

だけど、見えない人の波は私をどこかへと流していった。


流されて、流されて…

私はようやくどこかに辿り付いた。

「お父さん……!?」

何も見えない。お父さんの声も聞こえなくなってしまった。


とにかくお父さんを探さなくちゃ、そう考えた私は壁伝いによろよろと歩き出した。



…気が付けば、どうやらみんなから離れてしまったらしい。

いや…もしかして私だけ逃げ遅れちゃったのかな……


不安が広がり始めたころ、再び電気がついた。

…これでお父さんを探せる。

ホッとした私は、みんなを探そうと駆け出して曲がり角を曲がった。


…そこには、1人の男の人が立っていた。

足元には赤い海と、動かない人間。

何が起きたのか、私には理解できなかった。


「……、…」

男の人は口を動かして何か言ったようだったけど…なんでだろう、うまく聞き取れない。


「…、……」

また、何か言っている…やっぱり聞き取れない。


彼が何かを取り出して構えた。


…世界が反転した。







「っ!!」

今度は、私はベッドの上で飛び起きた。


「…ゆ…夢……?」

ふかふかのベッドから見える景色は、いつもと何も変わらない…


1つ違うことがあるとすれば、
いつもより窓から入る太陽の光が高い位置にあるということくらいだ。

「……もう昼、か……」


まだボーッとする頭でそう理解し呟く。


身体を確認すると、傷があった所には丁寧に包帯が巻いてある。

…首筋の古傷以外には。


「消えない…な…」

首筋に触れながら呟くと、コンコンとドアがノックされた。


「あ……はいっ」

「失礼します。お目覚めになられたのですね…!」

良かった、と言わんばかりに安堵した表情でベッドの隣の椅子に腰掛けるお手伝いさんの女性。


「すみません、心配かけて」

「いいえ…謝るべきはこちらの方です。駆けつけるのが遅れてしまい本当に申し訳ありません…」


彼女によると、庭の騒々しさと防犯カメラに写る男の姿を見て異変に気付いたらしい。


本来なら侵入者が入った時点でブザーが鳴るはずだった。

あの後他の人が点検したらしいけど、異常はなかったそうだ。


「…どういうことだろう…」

「…マナ様…、あの後これが地面に落ちていました」

そう言って差し出したのは…トランプ。


嫌なことを思い出して身震いする。


「私どもの方で調べましたが、文字が書いてあること以外は特に何の仕掛けもありませんでした」

…文字…

ハンター試験、とかって言ってたっけ…。


「お父様には既に連絡してあります。なるべく早く帰ってくるとの事ですので、それまではゆっくりお休み下さい」

「……そうですか。ありがとうございました」


やっぱ、無かったことに…ってわけにもいかないよね…


彼女はトランプを枕元のテーブルに置き、
お大事になさって下さいと言って一礼し退室していった。


「………」

ふと、右手を見る。


……いつも通り。

血も、綺麗に拭き取られている。



…幻、だったらいいのに。



私は複雑な心境のまま、今度はトランプを手に取った。


そこには、どこかの住所と……

申し込み、という文字の横に綴られたホームページのアドレス。


…受けろって言っているようなものじゃないか。


「……私の助けに…かぁ…」


…お父さん、何て言うかなぁ……









「マナ!」


その日の夜。

お父さんは出発してから丸一日ほどで帰ってきた。


「お父さん……仕事は?確か2、3日かかるって…」

「代理の者を置いてきた。残りの仕事は代理で十分だろう…そんなことより!」


お父さんは私の肩に手を置いて焦ったように尋ねてくる。

大事はなかったか。

気分は大丈夫か。

何が起きたのか詳しく教えてくれ、と。


私は元気に立っているのに少し焦りすぎじゃあないかと思ったが、
気持ちは嬉しかったので少し困ったように笑う。


「怪我のほうは大丈夫だよ、大した事ない……あのね…お父さん」

まっすぐ見つめると、お父さんも真剣な顔で私の話を聞いてくれた。


「2人っきりで、話がしたい…」




その後、私とお父さんは他の人が入ってこない書庫へ移動した。

私たちは巨大な書庫の中央にあるテーブルに向かい合って座った。


お父さんは私が話し出すのを待ってくれている。

待ってくれているのだけど…
私がなかなか言い出せなくて沈黙が流れ続けている。


もう15分くらい黙ってるんじゃないかな。

話さなきゃ、とは思っても上手く切り出せない。


あぁ…どうしよ。

時間が経ったら余計に話し出しにくくなった……!


「………」

「………」

「……マナ」

「ひゃいっ!?」

しまった。いくらなんでもビクビクしすぎだ。


う…うわ、どうしよう。

行っちゃうかな…
話が無いならこんな所にいる意味ないもんね、忙しいのに……


「お前は……外に出たいと、思っているか?」

「へ……?」

予想外の質問。

ビックリして、すぐには答えられなかった。


「…え、っと。外……?」


出たいと思ったことがない…と言ったら、嘘になる。

でも……

「私は…このままで十分満足だって思ってた。嘘じゃない」


だって。

私がいなくなったら…
いや、外で私に何かあったら。

きっと、お父さんは“何も守れなかった”って考えちゃうと思ったから。


ただでさえ、お母さんに何もしてやれてないのに…私にまで何かあったら。

そう考えると思った。


お父さんが過保護な理由も、多分そこから来ているんだと思ってたんだ。


もしお母さんが目覚めても、私に何かあったんじゃ示しがつかないんじゃないかとか。

私も私で、自分が出て行ったらお父さんが1人になるとか…そんな風に考えていたし。



でも……

…言わなきゃ。

私の考えている事、今言わなきゃ…!


「あの、ね……でも今は、色んなものをこの目で見たいって思ってる。色んな事を知りたいって……だから、教えて…」


たとえ、

答えを知ることで今までの自分の考えが驕りだと気付いてしまうとしても。


傷付くことになってしまっても。




ーーどうせ、避けては通れない。





「私は…本当にお父さんとお母さんの子供なの?」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ