鳥籠の闇、竜の鍵

□追試験、空の旅
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「…そ、そんな……」

冗談じゃない…合格者0!?

いや、今までも合格者0の年はあったと聞いてはいる。

それでも、これはあまりにも……


メンチさんは今、電話で試験の報告をしている。

恐らく審査委員会だろう。

けど…どうしてもこの決定は変える気は無いようだった。


ーードゴオォンン!!

「!?」

突然の大きな物音。

驚いてその方向へ目を向けると、そこには破壊された調理台と1人の男が立っていた。


「納得いかねェな…とてもハイそうですかと帰る気にはなれねェな」

この人は…トードーさん、だったかな。
彼はブラックリストハンター志望らしい。

それなのに、美食ハンターごときに不合格にされたのが許せないと言う。


「今回のテストでは試験官運がなかったってことよ、また来年がんばればー?」

…この人、気付いてない。

「ふざけんじゃねェー!!」

メンチさんがソファーの裏で包丁を構えてること…!


トードーさんがメンチさんに殴りかかろうと走り出した次の瞬間、手を出したのは…

メンチさんではなく、ブハラさんだった。

「……!!」

彼の張り手でトードーさんは軽々と吹き飛び、会場の窓を割ってそのまま外へ墜落する。


「っ…」

身構えていた私はホッと息をつく。

多分、ブハラさんが手を出さなければ…
トードーさんはメンチさんに斬られて、下手をしたら死んでいただろう。

不幸中の幸いというか…あれなら死にはしないはず。


「賞金首ハンター?笑わせるわ!!たかが美食ハンターごときに一撃でのされちゃって」

メンチさんが隠していた包丁を回しながら立ち上がる。

「どのハンターを目指すとか関係ないのよ、ハンターたる者誰だって武術の心得があって当然!!」

いつの間にか4本に増えた包丁をジャグリングしながら続けた。

「あたしらも食材探して猛獣の巣の中に入ることだって珍しくないし、密猟者を見つければもちろん戦って捉えるわ!!」


確かに、美食ハンターとて調理台に向かって料理をするだけじゃない。

さっきの私たちのように凶暴な動物を食材として倒すことだってあるだろうし…

未知の食材ならなおのこと。
今まで誰も見つけられなかったようなものを見つけるんだ、その覚悟は半端じゃないはず。


「武芸なんてハンターやってたらいやでも身につくのよ!あたしが知りたいのは未知のものに挑戦する気概なのよ!!」

メンチさんが大声で主張した…その時。


『それにしても、合格者0はちとキビシすぎやせんか?』

上空から聞こえたそんな声に、私を含め受験生は皆 外に出て空を見上げる。


「あれは…」

空に浮かぶ飛行船。

その機体に描かれているのは…ハンター協会のマーク!

「ということは、審査委員会…!?」


驚いていると、今度はその飛行船から何かが落ちてくる。

あの影…まさか、人!?


ーードォン!!

今日何度目かの大きな音と共に地面に着地した…人間。

それもなかなかお年を召した方らしいけど…


「…審査委員会のネテロ会長…ハンター試験の最高責任者よ」

「!!」

メンチさんの言葉に、受験生がざわめき始める。

この人が、ネテロさん…!

「ま、責任者といってもしょせん裏方…こんな時のトラブル処理係みたいなもんじゃよ」


何でもないかのように言ってるけど…

ハンター協会の最高責任者ってことは、立場上全てのハンターのトップってことでもある。

「メンチくん」

「はい!」

メンチさんですら緊張してしまうのは無理もない…。


「未知のものに挑戦する気概を彼らに問うた結果、全員その態度に問題あり…つまり不合格と思ったわけかね?」

「……いえ」

少し冷静になったのか、申し訳なさそうに説明し始めたメンチさん。


「テスト生に料理を軽んじる発言をされてついカッとなり、その際料理の作り方がテスト生全員に知られてしまうトラブルが重なりまして…」

「フムフム」

「頭に血が昇っているうちに腹がいっぱいにですね…」


そこまで聞くと、ネテロさんは諭すようにメンチさんを見た。

「つまり自分でも審査不十分だとわかっとるわけだな?」

「………はい」

メンチさんは申し訳なさそうに肯定する。


「スイマセン!料理のこととなると我を忘れるんです…審査員失格ですね」

私は審査員を降りますので試験は無効にして下さい、と彼女はネテロさんに言った。

あ、トードーさんが今起きあがった。
顔が血だらけだけど命には別条ないだろう。


「ふむ…審査を続行しようにも、選んだメニューの難度が少々高かったようじゃな」

よし!ではこうしよう、とネテロさんは人差し指を立てた。

「審査員は続行してもらう。そのかわり新しいテストには審査員の君にも実演という形で参加してもらう……というのでいかがかな」


そんなネテロさんの提案で、メンチさんから私たちに新しい課題が出された。

……“ゆで卵”。


…それを受けて、私たちは真ん中で2つに裂けたような形の山に飛行船で移動することになったのだった。
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