鳥籠の闇、竜の鍵
□またまた、彼と
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…暇、だなぁ…
ヒソカさんはまだ動く気配もないし、なのに隙は見せてくれないし…
先程感じた気配も今の所動きはない。
つまり、私はただヒソカさんの横で伏せているしかないわけだ。
周囲に警戒網を張るのも結構疲れるし…気分転換に歩き回りたい所なんだけどな。
「………」
んー…まぁ彼も怪我してるしね。
無理に動かせても悪いかな、なんてそれくらいはヒソカさんといえど気遣っている。
実際、彼に言わせてみればこんな傷なんともないのかも知れないけど。
「……!」
そんなことを考えていた矢先。
今度は確かに感じた誰かの気配に、私は首を持ち上げ辺りを見回す。
「ヒソカさん…」
「あぁ、分かってる♦︎」
小声で耳打ちすると返ってきた返事。
彼も気付いているようだ。
私たちの右手の草むら…
誰かが潜んでいる。
さっきの気配と同一人物…ではなさそう?
「…私が行きます」
草むらを睨みながらそう小さい声で申し出る。
今度は怪我がどうこうじゃない。
ヒソカさんが出ようものなら、何をしでかすか分からないから。
それこそ相手を殺してしまうかも…。
だったらまだ私が出たほうが良い。
完全に竜になったこの姿ならそうそう負けることはない。
自分で言うのも何だけど、大抵の人間には傷も付けられないだろう。
…そう思っての提案だったのだけど。
「イヤ…♠︎」
イヤ…?何、イヤって。私はお呼びじゃないってこと?
それとも私じゃ力不足ってこと?
確かにヒソカさんよりはまだ弱いかも知れないけどさ…!
「お願いします、ヒソ「さあ、出てきなよ♥︎」
む、無視……!?
スルーは酷過ぎやしませんか…!
「いるんだろ?」
彼の問いかけにも、草むらの気配は動かない。
「…こないならこっちから行こうかな♠︎」
ゆらり。
ヒソカさんが立ち上がる。
そして、気配の元…草むらへとゆっくり歩み寄って行った。
「……っ」
私も立ち上がり、固唾を飲んで成り行きを見守る。
問答無用に攻撃し始めないだろうか、ヒソカさん…
そんな風にハラハラしながら様子を窺っていた…その時。
ーーガサッ
草むらが動いた。
中から現れたのは、長い槍を持つハチマキの男。
島に向かう船で見かけて獲物ではないと判断した人だ。
男は槍を横に薙ぎ、周囲の草を切り裂いた。
凄い斬れ味。
あれ程の威力なら竜の鱗にも太刀打ちできそうだ。
しかも私を見てもそこまで怯えてないし、結構勇敢な人らしい…
「手合わせ願おう」
槍の男が口を開く。
目線はヒソカさん…
そうか、この人はヒソカさんが目当てだったんだ。
ヒソカさんと戦うために潜んでいた…
きっと彼は僅かな殺気だけでそれを分かっていたのだろう。
「死ぬよ♠︎」
「ちょっ」
待って待って。もう殺る気じゃないですか…!!
私の焦りなど気にもせずに男は槍を構える。
そして……
「とりゃ!!」
今度はヒソカさん目掛けて槍を大きく横に振るった。
「うわっ!」
距離的に私も巻き添えを喰らいそうになり慌てて地を蹴り後退る。
あ、危ない危ない…
ヒソカさんも上手く跳躍してかわしたみたい。
…横にあった木は根元から真っ二つだけど…。
槍の男の攻撃はさらに続く。
何度も槍を薙ぎ、突き…
それをヒソカさんは踊るようにかわしている。
「………?」
何か…おかしい。
あれ?この違和感は何?
ヒソカさんは攻撃をかわしているだけなのに……
「………あ」
そうか、分かった。
“かわしているだけ”なんだ。
そう…
ヒソカさんはまだ一度も攻撃していない。
「ハァッ、ハァッ…」
それに、この男の異様に早い息切れは…?
猛攻を続けているとはいえ、まだ息を荒げる程の時間も経っていないのに。
…私がその理由を知るまでに、そう時間はかからなかった。
違和感の正体…
それから、この男がとある悪運を引き寄せるということも。
そして、
そんな“悪運”から私の世界の歯車が回り始めることになるなんて…
今の私には、知る由もないのだった。