短編集・H×H
□とある日の出来事
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ーーガタン、ゴトン。
規則正しい音と振動に揺られながら、私は窓の外の景色を眺める。
夕焼け。
仕事帰りの風景は、いつも茜色に染まっていた。
いつもと同じような風景を、いつもと同じように1人で眺める。
…この電車は元々乗客が少ない。
ましてや私の降りる駅なんて店も何もほとんど需要がないから、今やこの車両にいるのは私と少し離れて座るもう一人の男くらいだ。
寂しい…わけではない。
むしろ、この静けさが好きでここに住んでいるんだから。
ただ……
ただ、何の変化もない繰り返しの日々に少しだけ飽きてしまったっていうのも、事実なわけで。
「ご乗車ありがとうございました、ルディネ駅ー、ルディネ駅です。お忘れ物にご注意下さい」
昨日と同じように。
明日も同じように。
何の変わりもなく私はこの駅で降りて、何の変わりもなく家に帰って、何の変わりもなく一日を終えるんだろうな。
…まぁ、それはそれで悪くはないけどさ。
そこで私は思考を中断した。
いつもと同じように荷物を持って、電車から降りるため立ち上がって……
「………ん?」
おかしいな。立ち上がれない。
疲れてるのか?いやいや、自分で言うのもだけど私一応タフな方だし。
ていうか立てないほど疲れるような動きしてないし。
……なんだろう。身体が重いってよりは、シートに引っ張られてるというか。
………シートに身体がくっついているというか……?
「クックック…♦︎」
ふと聞こえた不気味な笑い声。
えっ何事?
さっきまで座ってた男の人が立ち上がり、歩み寄ってきた。
「お疲れかい?立ち上がれないようだけど♣︎」
「え、いや……いやいやいや、これきっとあなたの所為ですよね?」
何となく…ただの直感だけど、さりげなく私の隣に座ったこの男が犯人な気がしてならない。
いやむしろ絶対にそうだろう。
第一この車両には私とこの人の二人しかいないんだから。
状況がイマイチ掴めないまま彼を見てそう言ってみたが、さあ?と返されてしまった。
「そんなことより…ねェ、名前は?♦︎」
「え、ナマエですけど…じゃなくてホント、これどうにかして下さい…!」
何を呑気にナンパしてるんだこの男はっ……!!
「ナマエかァ♣︎イイ名前だねぇ♥︎」
いいから!そういうの!!
早くしないと………
「ドアが閉まります、ご注意下さいーー」
「うそ、ちょっと待っ……」
思わず声を上げたが、当然待ってくれるわけもなく。
「あ。あぁーー……」
プシュー、と音を立てて虚しくもドアが閉まっていった。
「あーあ、乗り過ごしちゃったね♠︎」
「あーあ、じゃないですよどうしてくれるんですか」
スーツ姿の男を軽く睨んで悪態をついてみても、彼のニヤニヤ顔は収まらない。
…なんなのこの人。
「次の駅で降りて戻ればいいじゃないか♦︎」
「当然この張り付け状態から解放してくれるんでしょうね?」
「自力でなんとかしたまえ♥︎」
何故そうなる。
素直に自力でなんとかしようとしてみたけど、案の定1mmも身体が持ち上がらない。
「はぁ…どうしろっていうのよ…」
このまま終点まで張り付けの刑だろうか。
いやそれより、終点に着いてもこのままだったらどうしよう。
「んっふっふ…しょうがないなぁ…ナマエ、今夜はボクの泊まってるホテルに来るかい?♦︎」
…不思議だ。
“キミに拒否権はないから大人しくホテルについて来い”に聞こえる。
困ったなー。知らない人には着いて行くなって教わったんだけどなー。
しかもホテルかー…いやまぁ普通のホテルなんだろうけどさ…
……だけど…
「あぁ、もう。何でもいいです好きにしてください…」
ごめんなさい。
私、ちょっと嬉しかったのかも。
「好きに、ねェ…♣︎キミって案外大胆♥︎」
「何言ってるんですかセクハラ反対っ」
一日だけでも構わない。
私を何処かへ連れ出して。
ーー私に、変化をくれた人。
***
初短編だけど何がなんだか…w
短いですが楽しんで頂けたら幸いです^^;
ちなみに話に出てきた駅名はフランス語のオルディネール(平凡)を捩ったものだったり。
…結局ヒソカの名前すら出てこなかったけど
きっとこの後名乗るんだと思う(適当←
閲覧感謝ですっ!(*^^*)