短編集・H×H

□トリップ×邂逅×逆トリップ
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…昔、誰かが“物語の数だけ世界がある”って言ってた気がする。

小説にはその小説の。
漫画にはその漫画の世界が、どこかに存在するんだ…って。


…あなたは、信じますか?

例えば…あなたの大好きな小説や漫画。

その世界が、私たちの生きているこの“世界”とは別に、
どこかに存在していると言われたらーー。





「………」


「………」


……え。

………え??


どうして…私は地面に這いつくばってるんだっけ。

あ、そうだ。
家の階段から転げ落ちたんだった。


そう、家の階段。

…のハズなのに何でだろう…

私の家にはこんな廃墟みたいな広いスペースなんてない。


…っていうか…それよりも信じられないことが、目の前で起きている。

いや、正確に言えば“目の前にいる”。


大きなコンクリート片に座ってる、ファー付きの黒コートを着た男。

…私、この人知ってる。

私の大好きな漫画の、大好きな登場人物……



「クロロ…さん!?」
「ナマエ…?」


「「え……?」」

な、何で私の名前知ってるの!?

会ったこと…いやいやあるわけがない。

だって漫画の登場人物だもの。創作の世界だもの。


相手…クロロさんも、私に名前を呼ばれて驚いているようだし。

ど、どういうこと?どうなってるの??


「…本当に、ナマエなのか?…妙なオーラは感じられないが…」

「え…は、はい。…えっと、どうして私のことを…?」

「いや、それは俺のセリフでもあるんだが……あー…とりあえず、俺から話そうか」


うわ、珍しいもの見ちゃった!

クロロさんが…あの幻影旅団団長のクロロさんがあたふたしてる…!

あっいや、あたふたさせてるのは私だ。落ち着け私。


下手に動いたりして殺されたらシャレにならない。

ってもう既に大分怪しいと思うけどね。目の前にこんな人がイキナリ出てきて。

…今気付いたけど、クロロさんしっかり“盗賊の極意”発動する準備してた。例の本持ってるもん。超怖い。


「そうだな…どこから話せばいいものか……とりあえず、“ミョウジ ナマエ”は俺が今読んでいる小説の登場人物なんだが…」

え、私のフルネーム!名乗ってないのに!

それに今なんと?私が小説の登場人物!?


「…お前の容姿も服装も、その小説と完全に合致していた…その服、お気に入りなんだろう?」

「…!!」

あ、合ってる。

この服は気に入ってるから着る頻度も高いんだ。

その小説に…そういう描写があったってこと?何それ恥ずかしい。

…いやもちろん毎日は着てないよ?


「…だが……分からないな、なぜ小説の登場人物であるナマエがここに存在するのか…」

ぶつぶつと何か呟きながら考え込んでしまった。

……………

「………あのー…」

「あ…すまない。今度はナマエの話を聞かせてくれないか…?」

我に返ったように、私に説明を促すクロロさん。


「は、はい…私も同じく、漫画の登場人物として“クロロ=ルシルフル”を知っていました。…幻影旅団の団長、ですよね…?」

私の言葉にピクリと反応する。

「でも、私の世界では念能力とかそういうのはなくて……」

「あぁ…念能力どころか、争い事の少ない平和な所だと書かれていた」

あ、やっぱり知ってるんだ。


「だが、国によっては戦争が…それに、平和とはいえ核兵器もあると書いてあったが…本当か?」

「そ、そうですね……事件も全く無いってわけではないですし…でも、そちらの世界とは基準が違うというか」


そこで、私は1番聞きたかったことを聞いてみた。

「私は…その小説の物語は、どんな風に書かれてるんですか…?」

本当に私の描かれている小説があるなら…それがどんなものか、興味を持たずにはいられなかった。


「そうだな…物語自体は、俺からしてみれば平凡で何の変化もない繰り返しの毎日…といったところだな」

「うっ」

「とはいえ…俺はそこにこそ、この小説の魅力があると考えている。強いて言えば不条理演劇のような何のドラマもないーー」


あっ…あーぁ、始まっちゃった…

私には理解し難い内容の感想が延々と続く。

口を挟む隙もない…私は一体どうすればいいんだ…。
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