短編集・H×H
□毒に絆されて
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「ただいまナマエ」
「あっイル、おかえり…あれ?何持ってるのそれ」
「あぁこれ?ナマエが着るドレス」
「え?私の、ってどういう…」
「今夜の舞踏会、一緒に来てもらうから」
「はっ!?」
…私の夫はいつも唐突すぎてついていけません。
「と、とりあえずちゃんと説明して?どうしてイキナリ舞踏会?」
毎度のことながら急にそんなことを言われたものだから頭の中がゴチャゴチャだ。
それに舞踏会といえばダンス。私はそんなもの嗜んだことなんてないのに。
「その舞踏会に今回の仕事のターゲットがいるんだよ」
「えぇ…しかも暗殺の…?私そういうのは手伝えないよって言ってるじゃない」
ゾルディック家に嫁いだとはいえ私は暗殺専門というわけじゃない。
どちらかというと…念能力で毒や薬を作ったりするのが仕事なわけで。
「女性同伴じゃないと入れないんだよ、それに今回の条件が毒針での暗殺らしいからナマエの毒も使いたいし」
「じゃあもっと戦闘向きでダンスの上手い女の人とか…仕事仲間にいないの?毒は作ってあげるから」
「ナマエ以外の女と踊るとかありえない。大丈夫、危険な目には絶対遭わせないから」
正直会場に入れさえすれば楽な仕事だし、とイル。
「えぇぇ…うーん、そこまで言うなら……」
ちょっと不安だけど…まぁイルと一緒なら大丈夫かな。
「でも、私踊れないよ?ぎこちない動きしてたら目立っちゃうんじゃ…」
「大丈夫、ボクが教えてあげるよ❤︎キミならすぐ覚えられるさ♣︎」
「そうかな……ってうわぁぁ!?」
後ろからの謎の声に驚いて振り向く。
そこにはいつの間にか派手なピエロのようなメイクの“自称奇術師”が立っていた。
…そう、イルの友人(?)ヒソカさんである。
「なななんで家の中に…!?不法進入じゃないですかっ!」
「ちょっと、ナマエに近付かないで」
「わぁおヒドイ言われよう❤︎」
私を背中に庇って何処となく不機嫌なイルと何故か嬉しそうなヒソカさん。
す、凄くすれ違ってる気が。
「ていうかイルミ、なんでボクを誘ってくれないのさ♠︎折角ナマエのドレス姿が見れるっていうのに…❤︎」
「オマエを呼ぶ必要なんてないからだよ。わかったらさっさと帰って」
あくまで冷たくあしらう作戦らしいが、不穏なオーラに私はたじろぐばかりだ。
というかこの場に居づらい…!
「あっ、わ、私!これ試着してくるね!!」
耐え切れなくなった私はそう言ってイルが持っていたドレスを奪って駆け出す。
「あっ、ちょっと」
「じゃあボクは彼女のドレス姿を見たら帰ろうかな♦︎」
「今すぐ帰れ」
「………♠︎」
*
…執事さん達に手伝ってもらうこと数分、ようやくドレスを着ることができた。
とりあえず鏡の前に立って全身を眺めてみる。
見た目だけなら様になっているんじゃないかな。
けど…こんな立派なドレスは着慣れないし、ヒールや長いスカートが邪魔で非常に動きにくい。
こんな状態で大丈夫かなぁ……
「うん、似合ってるよナマエ。流石だね」
「…急に部屋に入ってくるのやめてもらえませんかね…」
部屋の入り口にはいつの間にかイルの姿。
着替えてる途中だったらどうするのよ、と抗議すると彼はきょとんと首を傾げた。
「別に問題ないでしょ?もうお互い裸だって見て「うわぁぁストップストップ!言わなくていいからそんなの!!」
ど、どうしてそういうこと平気で言っちゃうかなぁ…!?
私は自分でもわかるくらい真っ赤になって俯く。
「そっそうだ…ヒソカさんはどうしたの?」
「アイツ?ついさっきようやく追い返したよ」
「そ、そっか…お疲れ様?」
2人の関係にますます疑問を抱きながらも、落ち着いてきた私はようやく本題に入る。
「ねぇこれ、慣れてなくて結構動きづらいんだけど…ちゃんと踊れるかなぁ…」
正直かなり不安だ。運動神経自体はそこまで悪くはないはずだけど…。
「大丈夫だって、オレがちゃんとリードするから。それにそんなに上手く踊る必要はないしね」
そう…ダンスなんて本来カムフラージュに過ぎない。
本当に大切なのはイルの仕事を成功させることだ。
「そんなに緊張しなくていいよ。ナマエはいてくれるだけでいいから」
彼はそう言って私の額に優しくキスをする。
「……っ」
よ…余計緊張させてどうするのよ……!
「じゃあそろそろ行こうか」と歩き始めたイルを見ながら、
せめて飛びっきりの毒を作ってやろうと決意を新たにしたのだった。