鳥籠の闇、竜の鍵

□はじまり、はじまり
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「マナ、ただいま」

「あ、お父さん!お帰りなさい」


いつものように、庭で椅子に座り本を読みながら景色を眺めていた時のこと。

ちょうどお父さんが帰ってきたみたいで、私の方に歩いてきた。


手に…何やら袋を持っているみたい。


「これか?久しぶりに花を買ってきたよ。確かミセバヤの花がもう枯れていただろう」

あ、そうだった。

家の入り口に置いてある花…
ジャポンっていう国の珍しい花らしいけど、先週それが枯れてしまったんだ。


「ありがとう、大切に育てるね!」

袋を受け取ってそう笑うと、お父さんは私の頭を撫でてから家の中に入っていった。







よし!早速この花を植えよう。

せっかく買ってきてもらったんだから植えなきゃ意味ないし。


どこに植えようかな、なんて考えながら袋を開いた。


花は2種類。

一つはジャコウバラで…もう一つは黒バラだった。

「…うーん、なかなか存在感のある……」


というか、バラを2種類買ってくるお父さんのチョイスね。

…花言葉とか分かって買ってるのかなぁ。
いや分かってないよねー、この花2つともそんなにいい意味の花言葉ではないもんなぁ…

まぁ、綺麗なものは綺麗だし。良しとしよう!




…そういえば、私がこんな風に毎日を屋敷の庭で過ごすようになったのはいつからだっけ。

気が付けば、私は敷地の外に出ることなく生活していた。

というのも、自主的にではなくお父さんの言いつけを守っているだけなのだけど。


だからといって、別にお父さんを恨んだり憎んだりはしていない。


いつも私のことを気遣ってくれるし、優しいし…仕事がないときは話し相手にもなってくれる。

お父さんがいなくても、家事やら何やらのお手伝いさんと話すこともあるし…別段寂しいとは思わなかった。


生活に困ることはない。
トップレベルの大富豪…って訳でもないけど、それなりに活躍している企業らしいから。


ただ、

たった一つだけ…気にかかることはある。


「これが終わったら、お母さんの所に行こうかな…」

私はそう小さく呟いて、黙々と作業を続けた。
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