鳥籠の闇、竜の鍵
□追試験、空の旅
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ほどなくして、私たちは山の頂上に到着した。
縦に真っ二つに裂けた山…マフタツ山。
その裂け目、つまり谷にあたる所の奥底には川が流れている。
水深が深いから落ちても死ぬことはないらしいが、
流れが速いため数十kmも離れた海までノンストップだそうだ。
「それじゃお先に」
メンチさんはその深い谷に、真っ逆さまにダイブしていった。
「マフタツ山に生息するクモワシ…その卵をとりに行ったのじゃよ」
驚愕する受験生たちにネテロさんが解説する。
「クモワシは陸の獣から卵を守るため、谷の間に丈夫な糸を張り卵をつるしておく」
その糸に上手くつかまって、1つだけ卵を取り戻ってくる…
これが、追試験の内容らしい。
なるほど。これなら分かりやすいね。
「くく…マナ、大丈夫かい?♦︎」
「もちろんっ」
何のためにハンター試験受けてると思ってるんですか。
まぁ確かにちょっとは怖いけど、こちとらもっと怖い体験してますからね!
…実際、翼を使えばこんな谷底も楽に帰ってこれる。
でもそれをしないのは、ある意味私の意地。
少なくとも、強い相手とでも戦う時以外は使いたくない。
ただでさえ一次試験で“足”を使ったんだ。
今度こそ、私自身の力で!
「…それっ!!」
気合いを入れて、私は断崖絶壁から飛び降りた。
まずは糸につかまって…!
「よしっ…あ、ギタラクルさん」
つかまった糸の少し先にはギタラクルさんがいたけど、卵を取るなりさっさと崖を登ってしまった。
そのスピードの速いのなんの…
「す、凄いなぁ…」
私も負けてられないや、と卵を取って崖を登る。
山頂まで登ってみれば、そこには30人近くの受験生が飛び降りる勇気が出ず足踏みしていた。
「あ」
巨大鍋に自分が取ってきた卵を入れてしばらく…
私は、ある1人に近づく。
「あの。怪我、大丈夫ですか?」
鼻にティッシュを詰めたトードーさんがビクリと振り向く。
「あ…あぁ……お前、飛び降りたのか?」
「え?はい」
「…そ…そうか…」
項垂れるトードーさん。
そっか。彼、飛び降りてないんだね。
「ちょっと待ってて下さいね」
不思議そうにするトードーさんに、私は出来上がったゆで卵を持ってきた。
「これ。半分どうぞ!」
「!…い、いいのか?」
「はいっ」
彼にゆで卵を半分にして渡し、私も残りの半分を口に入れる。
「…美味しいー…!」
メンチさんが渡してくれた市販の卵と比べてみても、味が段違い。
食べたことないような濃厚な、かつバランスの取れた味は正に一級品だ。
「おいしいものを発見した時の喜び!少しは味わってもらえたかしら」
こちとらこれに命かけてんのよね、とメンチさん。
「………」
「ね?」
絶句するトードーさんに、メンチさんが声をかけた。
「…今年は完敗だ…来年また来るぜ」
トードーさんがちょっと悔しそうにそう言った。
でも、表情を見ると…うん、ちゃんと納得してるみたい。
「…ありがとよ、次も頑張れよ」
「はい。ありがとうございます…トードーさんも、賞金首ハンターになれますよう」
こうして、波乱の第二次試験も無事に終了。
合格者42名を乗せ…
飛行船は、マフタツ山から飛び立った。