鳥籠の闇、竜の鍵
□噂の彼と、塔の中
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…扉をくぐってから、大体5分くらいだろうか。
まだ何も起こらない…
私とヒソカさんは、ただひたすらまっすぐな通路を歩いていた。
「………」
「………」
今まで、ほぼ無言。
というよりは…いつ何が起こってもいいように、周りに神経を張り巡らせていた。
ヒソカさんはどうか知らないけど、私はそれで結構精一杯。
ただでさえ動きが制限されているんだ。
気を緩めたら一瞬で窮地に陥る、なんてこともあるだろうから。
「……マナ」
「…はい?」
周囲を警戒しながら、突然話しかけてきたヒソカさんに返事をする。
なんだろう、こんな時に。
「5秒経ったら全力で走って♠︎」
「えっ」
…意味は分からない。全く。
でも…なんとなく従った方がいい気がして、私は歩きながら脳内でカウントダウンを始めた。
5…4…3…
「……っ」
2…1…、
「…行くよ♦︎」
…0!
私とヒソカさんはほぼ同時に床を蹴る。
そして…その後起こった出来事に、私は驚愕した。
ーーヒュンヒュンッ
背後から聞こえた風切り音。
音の正体を確認しようと走りながら振り向くと、そこには…
「ゆ、弓矢っ!?」
壁から発射される無数の弓矢が、さっきまで私たちが歩いていた場所に突き刺さっていた。
…そして、今も休む間もなく弓矢は発射されていく。
ーーヒュッ!
「ひぃぃ!?」
あ、危ないっ…!
今の矢、私の耳のすぐそば通って行ったよ!?
手錠してるから上手く走れないし、ヒソカさん無駄に速いし…
文字通り、完全に足を引っ張ってる。
私たちこのままじゃまずいんじゃ……
「……!」
視界の左端に、私に向かって飛んでくる矢を捉えた。
ヤバイ。
たぶん…避けられない。
それに、今スピードを緩めたら弓矢の格好の餌食だ。
多少の怪我は覚悟で左腕の鱗でガードするしか…!
「っ…!!」
走る足は止めず、腕を鱗で包もうとしたその瞬間。
「きゃっ!?」
右手…いや、右手の手錠がグイッと引っ張られる。
「ダメダメ♠︎マトモに受けようとしないで受け流さなきゃ♦︎」
そんな声に次いで、ヒソカさんがトランプで矢の軌道を変えたのが見えた。
「ヒ、ヒソカさんっ……」
よろめいた私の身体を片腕で受け止め、小脇に抱えるようにして走り続ける彼を見上げる。
今…助けてくれた……?
「…すみません……ありがとう、ございます」
「どういたしまして♥︎キミもまだまだ修行が必要みたいだねぇ、マナ♣︎」
「うっ……は、はい…」
悔しいけど言い返せない。
うぅ…ヒソカさんに助けられるなんて…
…でも、彼の手を借りなければ今頃左腕に怪我を負っていたかも。
ここは素直に感謝するしかないなぁ……
感謝の気持ちと情けない気持ちを胸に抱きながら、
私はヒソカさんの腕に抱えられ雨のような弓矢の中を進んでいくのだった。