鳥籠の闇、竜の鍵

□狩る者、狩られる者
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「っ……!!」

左腕に痛みが走る。

銃弾が私の腕を掠っていったのだ。

掠ったとはいえ、そこからは多くはないものの血が流れ出ていた。


今回は運良く避けられたようなものだ。

じゃなかったら瀕死の重傷を負っててもおかしくはなかったはず。

けど…今も状況は変わっていない。


「どこから…!?」

じりじりと痛む腕を押さえて銃弾が飛んできたと思われる方向を注視する。

見えるのは、木や茂み。

これじゃ相手を見つけることもままならない。


……しょうがない…

ここで受けに回ったら相手の思うつぼだ。

接近することでリスクは高くなるけど、自分から動いて探し出すしかない…!


そう判断した私は腰のナイフを抜いて、大きくかつ不規則に蛇行しながら走り始めた。

恐らく相手はスコープを使って私を狙っている。

だったら、照準を合わさせないように動きながら距離を縮める!


ーーダァン!!

再び銃声が聞こえた。

しかし、今回は私には命中せず横を通り過ぎて飛んでいく。

そして…音の聞こえた方向……


……ここだ!


「ちっ…!」

草をかき分けて見ると、金髪を後ろで1つに束ねたサングラスの女性がライフルを構えていた。


…私の獲物…?

プレートを隠しているためこの段階では分からない。

「…私のプレートがお目当てってわけですか?」

「別に、私の獲物ってわけじゃないわよ。同盟組んでる関係でね」

とりあえず聞いてみると、そんな言葉が返ってきた。


ということは、他に私を獲物とする人がいるのか。

ちなみに返ってきたのは言葉だけではない。

銃弾という物騒なオマケ付きだ。勘弁してほしい。


私は再び彼女を中心に円を描くように駆け出した。

何にせよ…まずはライフルをどうにかするために間合いに入らないと…!


そう頭では分かってはいるけど、なかなか相手に近寄れない。

中距離での射撃は相手からしてみれば狙いにくい反面、私も避けにくくなおかつ一発でも当たれば致命傷になり得る。


いつ撃たれるか。命中するんじゃないか。

そんな恐怖もあってなかなか思い切り踏み出せない。

…弾切れが起こればこっちのものなんだけどっ……


「……っく…!」

銃弾が足を軽く掠める。

今回は怪我とまではいかなかったけど…どうしよう。

多分彼女は、先に私の動きを止めるつもりなんだろう。


私もそうそう避けられるわけじゃないし…

このままいったらまずい…!


私が焦り始めた頃、彼女の行動に異変が起きた。

「……?」

動きが止まった…撃ってこない?

…もしかして、弾切れ…!?


だとしたら…チャンスは今しかない!

私は覚悟を決めて相手へと直進する。


あの大きさのライフルを抱えての回避は難しいはず…

私はナイフを握り直した。

試験前のあの時のサーベルのように、柄を使って獲物を落とさせるため。


やっぱり彼女は撃ってこない…いや、撃てないんだ。

ある意味賭けでもあったけど、弾切れだという私の見立ては正しかったようだ。


そして、私は一気に懐に入り込む。

隙だらけの相手の手の甲にナイフの柄を振り下ろそうとした…その時だった。


「っ!うわ!?」

私に襲いかかったのは相手の持つライフル。

つまり彼女は最後の手段として銃身を武器に振り回してきたのだ。


ってそんなのアリ!?

1回目はなんとか身を捻じり回避した。

けど…体制を崩した私に次の攻撃を避ける術はなくて。


「つッ…!!」

鉄の塊が私の脇腹へと命中した。

私は痛みで数歩後退り、背中を丸める。


そして…その隙を見計らって、相手は木々の中へと消えていった。

恐らくこの状況では私を仕留められないと踏んでの行動だろう。

こちらとしてもありがたいといえばありがたいんだけど…


今後も狙われる可能性を考えれば、私には不利と言うべきか。

増してや彼女のプレートが私の獲物だということもあり得るし。


「…いっ…痛ぅ…」

まぁ…今は私にとっても好都合、かな。

周りに私を狙っているような気配はもうない。

彼女の獲物は私じゃないって言ってたし、深追いはしすぎないってことかな?


周りを確認してから左腕を軽く止血し、脇腹の様子を確認する。

うん。痛いは痛いけど、骨や内臓には異常なさそう。


後は本当は冷水があれば良いんだけど…

もうすぐ日が落ちる。

今は下手に歩き回るのはやめて、日が昇ってから行動しよう。


幸い、昼に散策してる途中見つけた水場も近い。

それまでは茂みにでも隠れてやり過ごそう…


決して警戒は解けない。

けど、体力回復と温存ができれば今は十分だ。


私は身を隠せそうなポイントに座り…

1人、静かな夜を過ごしたのだった。
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