鳥籠の闇、竜の鍵

□またまた、彼と
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何か変だ。

見た感じや雰囲気では割と強そうに見えるこの男…

この程度で息切れするとは思えない。


「……?」

ふと、2人の周りに集まった好血蝶が目に入る。

それも凄い数…!

さっきまで私たちに群がっていた2倍くらいの数はいるんじゃないだろうか?


一体何に……

好血蝶を目で追っていた時。

槍の男の背中が見えて、私はハッとした。


「…!血が…!」

背中に群がる好血蝶。

男は、かなり深い傷を何者かに負わされていたんだ。


「ヒソカ、何故攻撃してこない!!」

「このままよけてれば、キミは勝手に死ぬから♦︎」

ヒソカさんは余裕の笑みで相手を見やる。


「おびただしい好血蝶の数がキミの傷の深さを物語っている♣︎」

がくりと槍の男が膝を折った。

まずい、だいぶ弱ってる。

このままじゃきっと長くは持たない…!


急いで駆け寄ろうとしたけど、ヒソカさんが目と殺気で私を制する。

「マナは手出ししなくてイイ♠︎」

「どうしてですか!戦うつもりがないならもう良いでしょう!」

私が地面に爪を立てると、ヒソカさんが面白がるように笑った。


「この男が引かないってだけだろ♣︎最期まで戦士たろうとする意気はわかるけどねェ♦︎」

「…貴様…そこまで理解しておきながら…」

男が、槍を持つ手を震わせながらヒソカさんを睨みあげる。

「それでもなお私と戦ってはくれぬのか!!!」


力を振り絞るように叫び訴える男。

しかし、ヒソカさんは溜め息混じりにこう言い放った。

「ボクさぁ…死人に興味ないんだよね♣︎キミもう死んでるよ♠︎目が♥︎」

バイバイ、なんて言いながら先程槍によって切り倒された木の切株に腰掛ける。


まるでキミなんて眼中に無いとでも言うように。


「く…ぐぐ」

ヒソカさんの言葉に触発された男が脚を踏ん張り立ち上がる。

遠巻きに、槍を強く握り直したのが分かった。


「うああーーっ!」

半ばヤケクソともとれる雄叫びをあげ、ヒソカさんに襲いかかろうとする男…


「……!?」

それに…一瞬。

ほんの一瞬…それも微かに感じた殺気。

これはもしかして…!!


身に覚えのある感覚に思わず怯みそうになる。

それでも、竦みかけた脚を前に出して全速力で槍の男の前に割り込んだ。


「なっ!?」

驚く男を尻目に左前脚で槍を受け止め…反対方向から迫る“何か”を防ぐべく右翼を盾のように構える。

翼の鱗で自分の身体と槍の男を守れるように。


「っく……!」

次の瞬間、私の翼には鋭い痛みが走った。

一つじゃない…
いくつかの物体が、鱗の薄い部分に刺さっている感覚。

薄いとはいえかなりの強度はあるはずなのに。


そして、鱗に弾かれ地面に落ちた残りの“それ”を見たと同時に…

全身に、嫌な感覚が巡ってきた。

「っ!?」


この、感じ……

初めてじゃない!

これは…そうだ。
忘れていた感覚。夢で感じる嫌な感覚。


落ちていたものは“針”。

そして、先程感じた殺気の主。

ということはまさか……


全身に蘇る恐怖に、今度こそ脚が竦んで動けない。


私が試験中何度か感じた“嫌な感覚”…

思い出した。それは全て、あの事件で首筋の傷をつけられた時と同じ感覚なんだ。

そして、それを感じるのはいつも一定の人の元だったということも。


そう…それこそこの針を使う者であり、殺気の主。


私は力無く翼を重力に従って垂らす。

嘘だ…こんなことって…

あの事件の犯人が…
新郎を殺し私を殺そうとした張本人が、こんなに身近にいたなんて…!


戦慄する私の目の前に姿を現したのは…


「ゴメンゴメン、油断してて逃がしちゃったよ」

ギ…ギタラクル、さん……!!
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