Episode

□第二章
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あれから3カ月、順調に羽を取り返してきた。

南国のような温かな街で大きな宿を取り静かに過ごしていた。

「あの女が現れなきゃこっちは順調に物事が進み、平和に過ごせるな」

わざとらしく話す黒鋼にモコナは溜息を吐いた。

「またエレナの事を言ってるの?もう聞き飽きたよ」

2人の会話を聞きながらファイは微笑んでいた。

「また噂すると現れちゃうよ?」

「うるせぇな」

黒鋼の態度を見てファイは笑う。

「じゃあ食料を調達してくるねー」







そんな中、同じ国でエレナの駆ける足音が森に響いていた。暑いというのにレザージャケットを羽織りやけに目立っていた。

ハァハァと息を荒げる。そして振り返り敵の姿がないとわかり安堵の息を吐いて街の方へと向かった。

するとこちらに気づかずに歩いてくるファイを見つけエレナはゆっくりと振り返りここから遠ざかろうとした。

しかし

「悪いけど見つけちゃった」

ファイの声が後ろから聞こえエレナは眉を顰め振り返った。

「はーい」

笑顔を浮かべエレナはファイに声をかけようとしたが、ファイは殺気染みた眼差しをエレナに向け注射器を首に刺した。

「痛っ!」

一瞬顔を歪ませたエレナだったが、目の前が眩みファイを睨んだ。

「これってバーベナ…?」

「俺達もただやられるばかりじゃ不公平でしょ?少しは学んだんだ」

ファイの言葉にエレナは不満そうに彼を見つめた。







「あ!ファイさんお帰りなさ…」

帰ってきたファイを見てサクラは動きを止めた。

ファイの肩に背負われ不服そうな表情を浮かべたエレナにサクラは怯えた。

「とんだ土産を持って帰ってきたな」

拳をボキボキと鳴らし黒鋼はエレナを睨みながら笑う。

ファイは笑って隣の部屋にエレナを連れて入ると椅子に座らせ銀の鎖で手足を椅子に縛り上げた。

そして部屋に入ってきた黒鋼はエレナの光景を見ては笑った。

「お前のこういう姿、初めて見るな」

「地獄へ堕ちろ」

エレナは黒鋼を睨むと黒鋼はエレナの指を見てさらに笑みを浮かべた。

「これが魔女からもらった指輪か」

そう話すとエレナの指から指輪を抜き取ると近くにあったテーブルに置いた。そして彼女の座っている椅子を持ちあげ窓際に置いた。

「お願い!やめて」

エレナは必死に黒鋼を見つめたが黒鋼は何も応えずカーテンを開ける。

「あぁあああ!!!」

日光に当たったエレナの体は炎を上げ燃え始める。

「さっさと羽を渡せば離してやる」



隣の部屋からエレナの叫び声が聞こえサクラは不安そうに扉を見つめていた。

そんな彼女の隣に小狼が座る。

「心配しなくても大丈夫。これでサクラの羽が元に戻るから」

そう話す小狼にサクラは目を伏せた。

「でも、こんなの間違ってる気がする」

サクラの言葉に小狼は彼女の顔を見つめた。

「確かにエレナさんは私たちを裏切ったけど、皆無事だったし」

「それは結果論に過ぎない。彼女は俺達を危険に晒した」

「…」

小狼の台詞にサクラは目を伏せた。




「お願い…やめてよ」

顔にやけどを負ったエレナだったが、すぐに傷が治っていく。

カーテンを閉めた黒鋼だったが、もう一度カーテンに手を伸ばす。

「吐かねぇと、燃え尽きちまうぞ」

黒鋼の言葉にエレナは目を伏せた。

そして黒鋼はカーテンを開けると再びエレナの叫び声が部屋に響いた。

その光景をファイはじっと見つめる。

ダランとうな垂れるエレナを見て黒鋼はカーテンを閉めるとファイを見た。

「吐かねぇな。ちょっくら空気吸ってくる」

黒鋼自身も辛いのか曇った表情で部屋を出ていく。

それを見送ってファイはエレナの元へと近づき彼女の顔を見つめた。

そんな彼をエレナも見つめるとファイは彼女の頬を擦った。

「どうしてそこまでして自分を傷め付けるの?」

尋ねるファイにエレナは顔を背けるとファイは真剣な面付きになりカーテンを触れた。

「ここで灰になるか、自由になるか、選ぶのは君だよ」

「わかった…、話すよ。だから、この鎖解いてくれない?」

「それは出来ない。君を信用できないからね」

「……」

ファイの言葉にエレナは眉を顰めた。

「羽は…今は持ってない。でも安全な所に置いてある」

「安全な所って?」

「それは言えない」

エレナは目を細め答えるとファイはカーテンを握った。それを見てぎゅっと目を瞑るエレナを見てファイはそっとカーテンを放した。

「何か訳があるんだよね」

「……」

尋ねるファイにエレナは目を伏せた。

「侮ってた。オリジナルズを嘗めてたよ」

「どういう事?」

「どこまでも追ってくる」

エレナの話は真実に思えた。

「羽が原因で?」

尋ねるファイにエレナは目を閉じて頷いた。

「言えるのはここまで。私にも守らなきゃならないものがあるの」

そう答えるエレナの手にファイは触れると鎖を取ってやる。鎖の痕がくっきりと残る手首をエレナは擦りながらファイを見つめた。

「どうして」

鎖を解いてくれたのか、エレナは疑問を抱くがファイは笑って答えなかった。

「…ありがとう」

エレナはファイに礼を告げるとテーブルに置いてあった指輪を持ってその場を去った。

黒鋼が部屋に帰ってくるとエレナの姿はなく、驚いていた。

「吐いたのか?」

「全部じゃないけど、彼女は真実を話したよ」

鎖を片づけながらファイは静かに答えると黒鋼は目を伏せた。

「結構惨いこと、したね」

ファイの言葉に黒鋼は何も答えられなかった。



翌朝、

扉の叩かれる音が聞こえファイがドアを開けるとエレナの姿があった。彼女の顔を見て一行の表情は変わる。

「よくノコノコと俺達の前に姿を出せるな」

不服そうに黒鋼はエレナを見つめるとエレナは笑みを浮かべる。

「アンタも言える立場?」

いつもの彼女に戻っており黒鋼は額に血管を浮かばせ彼女の肩を掴む。

「調子に乗りやがって」

すると

「エレナから手を離せ!」

1人の黒髪の少年が黒鋼に体当たりし2人とも地面に倒れ込んだ。

「何だ!?」

驚いて身動きの取れない黒鋼を見てエレナは笑う。

「弟のロビン」

答えるエレナに黒鋼はロビンを見つめた。

何故少年はこの宿に上がってこれた?誰もが同じ疑問を抱く。

「しばらく、ここに泊めてくれない?」

あの眼差しで黒鋼を見つめると黒鋼は真剣な眼差しで彼女を見つめた。

「いいや、もうてめぇとは関わらねぇ。もう二度と俺達の前に現れるな」

冷たく言い放つとエレナは肩を竦めた。

「わかった。私はいいからロビンだけでも」

そう言いかけた瞬間ロビンは首を横に振った。

「そんなの駄目だ!」

エレナはロビンを見つめ眉を顰める。すると

「ちょっと来い」

黒鋼はエレナの腕を掴んで外に出ていく。

その光景を見てファイは微笑む。

「ロビン君だったかな?ケーキは好き?」





「今日はやけに素直じゃねぇか」

彼女の様子に黒鋼は違和感があり、尋ねるとエレナはレザージャケットを捲って自分の腕を見せた。

大きな噛み傷があり傷は膿んでいた。

「おいこの傷…!」

黒鋼の言葉にエレナは頷いた。

「狼人の噛み傷。明日までにオリジナルズの血を飲まなきゃ私は死ぬ」

静かに答えるエレナの額には汗が噴き出ていた。

「どうすりゃいい」

尋ねる黒鋼にエレナは目を細める。

「今日、羽を返す約束になってる。勿論返す気はないけど」

「俺も付いて行けばいいのか?」

「余計な気を起させないでよ。ただ私に何かあればロビンが危ない」

扉を見つめ話すエレナに黒鋼は呆れたように息を吐いた。

「守ってほしいって素直に言えばいいものを」

「やめて。幾ら守ってもらっても私はアンタたちを裏切り続けるよ」

エレナはそう言い残し彼の前から姿を消した。
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