拍手御礼小話2

□Monochrome Night【前編】
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Monochrome Night【前編】




「ゲームをしようぜ」

 事後、しどけなく寝そべっていた遊戯は、近付く気配を感じてぱちりと目を開けた。影を落とすような長く濃い睫毛の下から覗いた瞳は深紅――…魔王の証だ。
「……却下だな」
「何…」
「まずその身体をどうにかしようとは思わないのか?」
 怪訝そうに眉を顰めた遊戯に「何故」を言わせず、虹彩が金の瀬人はバスタオルを投げた。自身も丁寧な手つきで今は茶色の髪の水気を取っている。絶対に以前の若草色の方が美しく存在感もあったと思うのだが……と一人ごちてみても心の中で「もう一人の」瀬人は気持ち良さそうに寝息を立てるだけだ。きっと、先程までの濃厚を通り越してしつこい情事を思い出しているのだろう。良い夢見るな、いっそ悪夢に魘されてしまえ。
「…何か…べたべたしてる…」
「当たり前だろう、処理していないのだから」
 最近、もう一人の瀬人は非ィ科学的だ、と連呼しながらも自分の中に住まうこちらの『瀬人』の存在を認め始めたのだ。それはそれで面倒だな…と思っていたら案の定、身体を譲る度に条件を出してくるようになった。もともと誰の身体だと思っているんだ、なんて言葉はまさに(海)馬の耳に念仏。聞きやしない。
 断って無理矢理出てきてもいいのだが、そこはやはり仮にも自分自身、ウィークポイントは熟知している。
「…海馬?何だいきなり黙って…」
 この緋玉を盾にされると弱いのだ、魔王がもう一人の自分如きにどうにかできる相手じゃないと頭ではわかっていても。
「…いや、腰が立たないのなら抱きかかえて連れて行ってやる。そのままでは気持ち悪いことこの上ないだろう」
 今回の条件とはそれすなわち事後処理。その分の体力まで余さずに性欲に任せて注ぎ込んだ瀬人は、自分自身と遊戯の身体を清めることを条件に束の間の逢瀬を許したわけである。
「腰…?自分で立てるに決まっ……あ゛…ッ!?」
「………良い恰好だな」
 勢い良く立ち上がろうとした遊戯は、知り得もしない激痛に顔を歪め、そのまま前に倒れ込んだ。四つん這いで腰だけを上げた姿勢、痛みでわずかに瞳を潤ませシーツを握り締める姿は誰がどう見ても『そういう』風に見える。瀬人は率直な感想を漏らした後、(もちろん網膜に焼きつけるのは忘れなかったが)遊戯の身体を仰向けにして、そっと抱き上げた。
「なっ…おい…!」
「大人しくしていろ、落とすぞ」
「…そんなことしたらどうなるかわかってるだろうな…」
「………」
 身体は同じだと言うのに、この雰囲気の差は何だろう。確かこの抱え方はムードを盛り上げるのではなかったか、何か別のボルテージ的なものが上がっている気がする。快楽も何も無く激痛だけに苛まれている身を考えれば当然のことかもしれないが。
「…シャワーの温度は調整してある。このマットの上に座って、ゆっくり身体を洗っていけばいい」
「…お前やってくれないのか?」
 遊戯をシャワールームに敷いたマットの上に下ろしてそう言うと、紅い瞳が似合わず無邪気にそんなことを言って見つめてくる。瀬人は思わず目をぱちくりとさせたが、すぐにいつも通りの怪しげな笑みを取り戻した。今現在の瀬人の顔でそれをやると、蠱惑的というより若干変態じみて見えるのが難点だ。
「このオレを使用人のように使うつもりか?……それとも…」
「うっ…!?」
 ツツ…と悩ましい曲線を描く背筋をなぞり双丘の合間に辿り着いた指は、明らかな意志をもってその場所を撫でる。淫猥なその手つきに遊戯の身体が震えた。
「…ここをオレに掻き回して欲し…」
「出ていけ―――ッ!!!」
「ぐぁっ…!!」
 最高級の石鹸、泡立ちは悪いが良く洗える。………そして、非常に、硬い。

 

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