scherzando
□夜咲花儚【春眠春雨】
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「……嫌な人…」
しとしとと聞こえる雨の音に紛れるほどの声で、遊戯はぽつりと呟いた。
向かいの遊郭は今日も遅くまで騒がしかったな……と、うつらうつらしていたオレは、その声にふと視線を腕の中に落とす。
「…それはオレのことか…?」
少し汗ばんだ剥き出しの肩口にそっと顔を寄せる。
ふわ…と花のように淡く香るこれは、長年の娼妓生活で染み付いたのだと言う。
艶めかしい姿とは真逆のそれ。
今までどれだけの男が、揺れる行灯の下、この華奢な体躯をこうして眺めたのだろう。問うたところでどうにもならないことを考えてしまうのは、自分が色遊びに慣れていないからなのだろうか。
今も、そうやって背を向けていて。
オレが何を言おうと、どうせお前は偽りの笑顔を向けるのだろう…?
それが娼妓の務めだから。オレは客だから。
何度逢瀬を交わそうと、変わらない関係だと分かっていたはずなのに。
「…他に誰がいるんだよ」
いつもはどうやっても振り返らない遊戯が、ごそごそと寝返りをうった。