scherzando
□夜咲花儚【雨桜*幼なじみ】
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「……あーあ、これじゃ花見はダメだぜ」
前夜からの土砂降りは止む気配がなく、最近上客になったヤツを大門まで送って帰ってきた遊戯は、濡れて色が変わってしまった着物の裾を少し持ち上げながら、苦笑した。
「……やっぱりあいつ、雨連れて来てるよな。最近よく降るし」」
「…あいつ…って、海馬…様のことか?」
「あぁ。どうにかして桜を拝ませてやる、なんて言ってたけどいくら御曹司でも天候は無理だぜ」
遊戯はそう笑うと、頗る上機嫌で湯殿へ行った。
………面白くない。
だってそうだろ。オレは幼なじみで、ずっと一緒にいて、遊戯は仕事の翌朝は決まって指圧をねだったり、意味もなくじゃれついてきたりしてたんだ。
それが最近すっかりご無沙汰。その上客、海馬瀬人と遊戯の間に肉体関係が無いことは知っているから、それも頷ける。けど、許せないのは遊戯が海馬を私室に上げることだ。座敷に廻し部屋、他の上客がいても奴を優先する。野郎は平然としているが、オレや旦那衆からして見れば羨ましいこと限りない特別扱いだ。
しかも遊戯本人はあからさまな自分の態度に気付いていないみたいで……
頭が痛い。飛び入り参加野郎の一人勝ち注意報だ。
(…桜かぁ……御曹司だもんなぁ…きっと遠くの土地から運んできたり出来るんだろうぜ…)
主を慕って飛んできたのは梅だったかな、なんて考えながら、オレは深く深く溜め息をついた。
(…所詮オレなんかただの幼なじみだし、一介の茶屋の番頭だしよ)
若様たち相手に誇れるのなんて、腕っぷしとか、遊戯を喜ばせるつもりでいろいろ身につけた技術(蕎麦打ちが一番最近だな)、あとは想いの長さと一緒にいた年月くらいだ。
ちっと頼りねぇかもしんねぇけど、それってめちゃくちゃ大事なことだと思う。オレは一晩寝るよりも、一年隣で笑顔を見ている方がいい。
(ね、寝るって……いやいや妄想しすぎだろ、オレ…)
自分で考えたことに恥ずかしくなって、オレは完全に挙動不審になりながら帳簿を閉まっている引き出しを開けた。
ふと、漂ってくる甘い香り。
「あ、そういや…」
獏良と酒を呑みにきた結城様が、差し入れに甘いものをって、かりんとうをくれたんだった。
一つ摘んで口に放り込む。うん、黒糖のやつはやっぱり美味い。
(……ん…?これって…)
遊戯にもやろう、とそのかりんとうを眺めていたところ、はっと閃いた。
(…これならもしかして……!)
城之内克也、18歳。男の意地を見せてやる。