scherzando

□夜咲花儚【雨桜*幼なじみ】
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 遊郭が流行ったって、娼妓にとってはいいことなんかない。しかもウチの見世の場合は経営者がアレだしな、アレ。獏良も良い機会だと思ったのか、潔く休業宣言をして、陰間や禿たちは自室で思い思いに過ごしてるみたいだ。
 さっき様子を見に行ったら、大抵は日頃の疲れが出ているのか熟睡していた。
 その中で、獏良と遊戯は琴や三味線、舞の自主稽古をしている。さすが二枚看板、何だかんだ言って自分に厳しい。

 で、そう言うオレは、というと……
「うわっ…ぁちち…っ!」
 台所に籠もっていたりした。料理は得意な方なんだけど、これは料理っつーか工作、しかも久し振りだからなー…。
「あつっ…っ…あちいっ…!」
 しかも匂いがヤバいくらい甘ったるくてむせそう……。
 けど、慣れれば楽なもんで、最終的には鼻歌混じりだ。
「…っお、これは巧くできたぜ」
 調子に乗って大量生産したりして。
 でもあとは組み立てるだけ、ってとこで台所の扉が開いた。

「え、甘…っ!何してんの克也兄?」

「…っはー…っ!何だお前かよぉ…ビビらせんなよなー…」
 遊戯だったらどうしようかと思った。
 そこに立っていたのはウチの見世の三番手、美少女系の顔して性格はとんでもないやんちゃ少年、真里(マサト)だった。…鼻摘むんじゃねぇよ、いくら甘味嫌いだからって。
「…うふぁー…はんふぁっはふぇー?」
「…だから鼻摘むなって。…どーよ、結構自信あんだけど?食ってみ?」
「えー…ま、どうしてもって言うなら…」
 案外気遣い精神見せてくれる。真里はちょっと形の悪いやつをひょいっと口に入れた。
「ん!おいひい!」
「そうか!!」
「これは遊ちゃん喜ぶね!」
「だよな、あいつ甘いの好きだから…」

 …ってあれ…?


「…おい真里、頼むからそのにやけた顔どうにかしてくれ…」
「えぇ〜?む・り。やっぱこれ遊ちゃんのためだったんだー」

 オレとしたことが、三歳も年下のヤツにはめられた。うぅ…情けない…。

「だってね、これすっごくそういう味するんだもん」
「そういう味…?」
「『オレはお前が好きだぁ!』みたいな恋の味、っていうの?」
「ぶっ…!!何言い出すんだよ?!!」
 顔が熱くなるのがわかる。確かにオレは遊戯が喜んでくれるところを想像しながら、心を込めて一つ一つ作った。
「何か滲み出てるもん、そういう気持ちが」
 ………そーいうもんなんだろうか。
「オレは応援してるからね、克也兄のこと」
「うっ…うるせぇ、余計なお世話だっての…!」
「あっはははは、じゃあ頑張ってー!」

 周りに分かるほどって……オレどんだけだよ、っつう話だ。
(…まぁ、一番気付いて欲しいヤツは鈍感なんだけどなー…)
 良いような悪いような。けど…ま、『幼なじみ』も悪かないけどな。
 そんな独り言を呟きながら、着実にそれは完成に向かって行った。
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