無気力少女は裏切りに生きる
□第二夜 利害一致の悪徳契約
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私はフェリドと二人きりで屋敷の一室に居る。
書類が置いてあるので、貴族としての仕事にでも使っているのだろう。
仕事って何やってるんだろ、気になるな。
「はじめましてフェリド様。一体何の御用でしょう?」
彼の名を呼びつつ、あえて名乗らない。
名乗らないくせに相手の名前は呼ぶとか、イラっとすると思うんだよね、多分。
要は、小さな嫌がらせだ。
「あれぇ、名乗らないんだね。当然君の名前は知ってるけど」
あ、名前についてツッコミ(?)を入れてくれた。
よくぞ気付いてくれました。
それにしても、出ました、裏で何考えてるかわからないこの笑顔。
しかし、笑顔という名の無表情は、私も負けず劣らずだ。
「あら、人間の……家畜の名前など、知る必要はないでしょう?」
にっこり笑って言ってみせる。
「まあ、それもそうだね。ところで、今日何で呼び出されたか……わかるよね?」
人の良さげなニコニコとした笑みを貼り付け、彼は話題を切り出した。
「ええ、何となく察しています。私だけ逃げなかったから……ですか?」
「うん、そうそう。昨日から不思議だったんだよねぇ、君が居なかったから。なんでかなぁってさ」
まあ、疑問に思われない方が怖すぎる。
「だって、めんどくさいじゃないですか。逃げ出そうなんて……浅はかですし、どう考えても不可能。それに、外に出るのはどうにも苦手でして」
当然、原作だと皆殺しにされるから……なんて言えないので適当に理由を述べたが、あながち嘘ではない。
私は、二言目には「めんどくさい」が出てくる人間だ。
(いつから、そんな人間になったのだろう……ああ、そうか。この世界に来てからだ)
「へえ〜、そうなんだ。……本当にそれだけ?」
「虚言は罪に値しますからね」
隠し事はしますが、と心の中で付け加える。
「へえ……?」
それから十数秒程、互いに笑みを貼り付けたまま見つめ合った。
これは、笑顔の睨み合い。
笑顔の裏では結構ガクブルしてましたよ?私。
一秒後には殺されるかもしれないんだから。
しかし、心配は無用だった。
「あははっ!君は本当に面白いなぁ。何を考えてるのかわかりづらいよね。うん、期待通りだ」
「……?何のことですか?」
突然笑いだした彼の言葉に、私は首を傾げた。
その時ちらりと見えた牙に、一瞬気を取られつつ。
「君に頼みがあるんだ。今日呼んだ本当の理由もそれ」
「……本当の理由って、何ですか」
尋ねると、フェリドは今までのニコニコとした笑顔とは一変し、ニヤリと口元を歪めた。
「……君に、僕の手駒になって欲しい」