無気力少女は裏切りに生きる
□第三夜 任務開始
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「え、日本帝鬼軍?」
あれから四年。
私は今、フェリドと初めて対面した時と同じ部屋に居た。
そして、かなり唐突に仕事内容の説明を聞かされている。
「うん。百夜優一郎君が見つかったんだ。彼は日本帝鬼軍の所に居る。で、君には彼の監視と日本帝鬼軍のスパイをやってほしい」
それは無茶ぶりと言うんですよ、先生。
「んな、優一郎君と接触できかわからないのに……っていうか、四年前に言ってたスパイやって欲しいって帝鬼軍だったんですか。私の顔、優一郎君知ってますよ? 何て言って誤魔化すんです?」
そうだ、向こうは顔を知っている。
万が一怪しまれて調べ上げられたら、流石に太刀打ちできない。
「あ〜、そこは大丈夫。君が外に逃げ出したことにすれば良いよ。勿論クルルやミカ君にもそう思わせる」
簡単に言うフェリドだが、かなり問題発言だ。
吸血鬼はほんと人使いが荒い。
「女王も騙すんですか。っていうか、どうやって渋谷に行けば?」
「君一人で行ってもらうよ。大丈夫、このために捕まえた人間にあの鬼呪装備だっけ?の、使い方を教えさせたんじゃないか」
正確には量産型鬼呪装備です。
「でも、武器をどこで手に入れたことにすれば良いんですか? 拾ったとか?」
まさかと思いつつ尋ねるも、
「うん、そのとーり。さっすが弥影ちゃん」
うん、図星っ……て、無茶ぶり過ぎます。
そう思いつつフェリドを見ても、いつもの笑顔を返されるのみ。
「…まあ、今時その辺に一つくらい鬼呪装備が落ちてても可笑しくはないですよね、多分」
それにしても、もうそんな時期か。
弥影は少し感傷に浸る。
あれからさらに四年の月日が流れた。
……物語が動き出すまで、あと僅か。
「ーーちゃん? 弥影ちゃん?聞いてる〜?」
「! あっ、はい。すみません」
ダメだ、原作のことは今は忘れなくては。
元の世界に帰ることだけ、考えないと。
「そう…あ、でねぇ、弥影ちゃんには月鬼ノ組に入って欲しいんだ」
……あれ? この人、今なんて言ったんだろう、あはは……
「あの……今なんて?」
「月鬼ノ組に入って欲しいんだ」
「え……はあ⁉ あのエリート集団に⁉ 無理です、鬼を宿した鬼呪装備が使える前提で、その中でも強力な力を持つ選りすぐりの人達ですよ⁉」
今度こそあまりの無茶ぶりに声を荒げた。
それでも、彼の様子は変わらず。
「まあそこは頑張って」
この人は私を何だと……あ、家畜か。
「まあ、私は従うまでですが……私のレベルを理解して下さい」
「君はやればできる子だって信じてるよ」
……私の話を聞け。
「あの、ですが、一つ問題が……」
そう、スパイ活動の上で少し支障をきたすかもしれない問題。
「ん? 何かな?」
「実は、こちらの世界に来てから、前の世界の私の身体じゃなくなっていて…この身体の本当の持ち主の出自が全く解らないんです。もしかしたら、この身体のせいでとんでもない自体が起きる可能性も…」
「前の子がどうだったか知らないけど、今は君の身体だよ。適当に記憶喪失ってことにしておけばいいんじゃない?」
「は、はあ…」
テキトーなのか真面目に考えてるのかわからない言葉に、曖昧に言葉を返す。
「あ、それからもう一つ。君の役目が終わったら僕が直接迎えに行くよ。それ以外の時に会ったら、他人の振りしといてね〜。
じゃ、今から任務開始〜」
「はい。では、またいずれ」
説明を受けた直後に準備も無く始まるんですか、流石フェリド様。
扉を開け、一歩部屋の外へ踏み出した。
正直、今回の任務内容の感想は、めんどくさいの一言に尽きる。
今までの仕事もだけど。
「欲深い人間に利用されないよう、気を付けてね〜」
私は、後ろ手に扉を閉めた。