連れてって
□01
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ピチョン──
「ん、ッ……」
水の、音……
雨…?
ピチョン──
「ぁ……」
コンクリートのような冷たい感触に、雅はやっと目を覚ました。
「……ここ、どこ…?」
上半身だけを起こし辺りを見回すが、カーテンが閉められているせいで薄暗い。しかし、目を凝らして見てみると、教卓や机が並んでいて、前にある黒板らしいものは半分崩れていた。
どうやら、ここはどこかの学校らしい。桐皇じゃないことは確かだが。
雅は立ち上がると、僅かな隙間から光が漏れるカーテンを開けた。
「…………森……」
どこかの森の中の学校。それも、既に廃校しているであろう荒れ具合。
自分はいったいどうしてしまったのだろう。
さっきまで体育館で、いつも通り監督の手伝いをしていたはずだ。それが気が付いたら、どこか知らない廃校の教室で寝ていた。
(そう言えば水の音がした……けど、廃校に水道って通ってる…?)
それとも、ただの雨漏りか。
明かりの入った教室を見回したが、水が漏れているところなど無い。しかし、あの音は確実にこの教室で聞こえていたはずだ。
(……何か、手がかりになるようなものは)
水の音は後で考えるとして、今は自分がどこにいるのか、という事だ。この廃校が何処に健在しているのか、否、学校の名前だけでも、何かが欲しい。
……というより、動いていないと不安でパニックになりそうだった。
雅は机の中や棚を漁り始めた。
「……何もない、か」
呟いて、あと1つだけ、探していないところがあることに気がついた。
「オルガン…」
教室の端で倒れているオルガンは埃を被り、塗装は剥げ落ち、壊れてしまっていた。
雅は鍵盤の蓋を開けた。
「何、これ……」
蓋の裏には、紙が貼ってあった。
古くなったテープは簡単に剥がれ、その紙は簡単に取れた。
それはどうやら日記のようだ。
No.1
20××年 ×月×日
今日、市の偉い人が学校に来てた。職員室で何か話していたのを盗み聞きしたら、この村をダムにするから出てけって。おじいちゃん達がすごく反対してる。
ピチョン──
「えっ…」
また、水の音……
そして、今度は確かに、自分の頬が濡れた。
ピチョン─
ピチョン──
「ッ………ッ……」
雅は、上を向いた。
「ひ、」
ソレは、雅に向かってニタニタと笑っている。ガチガチと歯を鳴らし、血走った目を大きく開き、その目からは赤い滴が滴り落ちて、足下に赤い水溜まりを作っている。
〈フー……フー……〉
尖った歯の隙間から、冷たく血生臭い息が漏れている。ソレは、口を開けて段々近づいてくる。
「あ…ぃ、や……ッ……ぃゃ、」
声が、出ない。
足が、動かない。
逃げなきゃ、逃げなきゃ、
焦る思考に対して、身体はまったく動こうとしない。
(た、すけ、て……)
ポロリと涙が1粒、頬を伝った。
それと同時に、血が雅の頬に落ちた。
「あッ…ああッ…!!」
──ガラッ
涙が肩に落ちた瞬間、雅は教室の外へと転がるように出た。すぐに振り替えって見ると、どうやら化け物は教室の外には出られないようだ。まるで獲物を見るような目だけを扉の上から、逆さまのまま覗かせている。
「はぁ、はッ…あ……」
早くそれが見えないところに行きたいのに、腰が抜けてしまった。壁に寄りかかるように座り込み、ただ震える体を抱き締めた。