連れてって
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「何なんッスか、ここ」
海常の黄瀬涼太がキョロキョロと周りを見た。周りの人間は「知らねぇよ」と言いたげに俯いたり、同じように見回したりと様々な反応を見せる。
彼らがいるのは、見知らぬ体育館。と言っても、カーテンは虫が食い、窓ガラスも何枚か外されていて、隅には埃がたまっている。もう何年、何十年も使われていないのだろう。
「ここにいるのは、キセキの世代を擁する各校のレギュラー陣か」
「男ばかり……こういう時女の子がいれば側に寄り添って」
「黙ってろ森山」
冷静な状況判断をしている笠松に対して、森山は危機感というものがないらしい。空気を読まない発言をして笠松に沈められてしまった。
「これだけのメンバーが同じところで合宿なんて、凄い偶然だな」
「そうじゃねぇだろダァホ。そもそも、こんなゴールもないところで合宿もできねぇだろうが」
「さっきまで体育館で練習してたんだよなぁ。そしたら気がついたらここに」
「けど、つっちーとカントクいねーし」
「俺らんとこは姉貴とさつきがいねぇな」
それぞれの学校でいない人を確認し、改めて全員が円になって話し合う体勢になった。しかし、良い案もないのに発言することはできず、誰も何も言わない。
しかし、この沈黙は赤司が破った。
「このままじっとしていても始まらない。探索チームと待機チームに別れましょう」
赤司の言葉に、全員が頷いた。
そして、話し合いにより桐皇と陽泉が最初の探索チームとなった。
「んじゃあ、桐皇さんは上を見てきとくれ」
「せやな。桜井ー、ビビって離れたらあかんで」
「は、はい!スミマセン!」
桐皇は陽泉と別れ、まず4階へと向かった。そこはどうやら特別教室の階らしく、理科室や家庭科室などがある。
「奥から見てくか」
「奥は……理科室か。ホラー映画なら人体模型が動いたりするもんやな」
「止めろよ、若松がビビってる」
「ビッ!?ビビってねぇッスよ!」
「だっせ」
「青峰てめっオモテ出ろ!」
──ギシッ
「静かに。何か聞こえた」
「ああ」
───ギシッ……ギシッ……
「か、階段…?」
「誰か上がってくんのか?」
「……すげー嫌な予感がすんのは俺だけか?」
「偶然やな、諏佐。ワシもするわ」
「家庭科室開いてんぞ。隠れるか」
青峰が開けた家庭科室に入り、1pほどの隙間から様子を伺う。
──ギィ……ギィ……
「……おいおいマジかよ…!」
「しっ……」
ソレは本来、教室の片隅で佇み、じっとしているものではないのだろうか。木やプラスチックできた中身が、どうして息づいているのだろうか。
どうして、校内を堂々と、徘徊しているんだ。
「あ、あれ、人体模型、で、すよね…?」
「臓器がリアルに動いてやがった…」
──ガタガタッ
「ひぃっ…!」
「……ちゃう、下で聞こえた」
「し、下って、陽泉の…」
「いや、1階の音がここまで聞こえるとは思えない」
「……アイツ、降りていくで。理科室の向こうにも階段があるようや」
何にせよ、この隙に体育館へ戻りたい。
だが、3階から物音がしたと言うことは、そこにも何かがいるかもしれない。
迂闊には動けないということか。
「…………あ……?」
「どうした?青峰」
「今、姉貴の声が、」
「雅さんの声…?聞こえませんでしたけど、」
「気のせいじゃないのか?」
青峰は、導かれるように扉に手をかけた。
「アカン。迂闊に動けば訳のわからん奴に捕まるで」
「感じなかったのかよ、今吉サン。俺ははっきり感じたんだ。姉貴が、姉貴が“助けて”って言ってんだよ!」
「あっおい青峰!!」
「青峰さん!」
青峰は、家庭科室を飛び出した。
(姉貴ッ……姉貴ッ……!!)