連れてって
□03
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まだ、見てる……
雅は何とか立ち上がって、とにかく手がかりを探そうと辺りを見回した。相変わらず少女のようなモノは自分を見ていたが、教室から出れないのなら何もしてこない。それがわかって、少し緊張が解れたようだ。
──ギィ……ギィ……
「!」
しかし、束の間の安堵は打ち消された。
「な、に……?」
ソレは、雅が教室から飛び出た時の物音に反応したようだった。先程まで4階を徘徊していた、
「人体模型……?」
──ギ、
無表情なはずのソレの頬が上がった。
息などしていないはずのその口から空気が漏れ、空気を揺らす。
〈ミィ ツ ケ タ 〜〉
「ひ、」
今度は、すんなり足が動いた。
「助け、て……!助けて…!ッ……あ!」
どこか、隠れる場所はないのか。
雅は階段を降りようと角を曲がるが、変に凹んだ床に足を取られて転んでしまった。もう、すぐ後ろに人体模型がいるのに。
〈シ ン ゾ …… シ ン ゾ ウ〉
「やッ……いやぁッ……!!」
人体模型が、手を伸ばしてくる。
ソレの胸には、あるはずのものが無かった。
そう、心臓が、無かったのだ。
冷たい手が、雅の胸元に触れた。
(殺される……!)
「うるぁ"ぁあ"あッ!!!」
──バキィッ!
「!!」
「姉貴!」
「ぁ、あ……だぃ、き……」
間一髪だ。
階段を飛ぶように降りてきた青峰によって、人体模型が吹き飛ばされた。
「雅!」
「どうして雅さんがこんな所に…!?」
駆けつけた他の4人は、人体模型が転がっているのを見付けて安堵の息を吐いた。しかし、人体模型はすぐに起き上がった。まるで起き上がりこぶしのような立ち方に、一同は再び逃げることになる。
「家庭科室!あそこが開いてんだ!」
諏佐が先頭を走り、最後尾には雅を抱えた青峰が走る。家庭科室に逃げ込み、奥に隠れるように雅を降ろす。
「は、はっ……はっ……」
雅にはショックが大きすぎたようで、浅い呼吸をして震えている。
「姉貴、もう大丈夫だぜ。落ち着けよッ…」
「いやッ…いやッ……来ないでッ……!」
「姉貴…!」
「青峰、怒鳴ったら余計怯えてまうやろ。ワシに任せてくれへん?」
「今吉サン……」
怯えて目をつむり、耳を塞いでしまった雅の前に、今吉は片膝をついた。
そして、優しく手に触れる。
「雅、ワシを見て、ワシの声だけを聞いとって」
もう片方の手は、雅の頭に置いた。
怯えながらも、雅は今吉を見る。その瞳にはまだ、動揺や不安、恐怖の色が混じっている。
「ゆっくり息して、落ち着こう、な?」
「ッ……」
「……怖かったな。もう大丈夫やで、ワシらがおる。よう頑張ったよ」
「せ、……せん、ぱ…」
「せや。もう怖いモンはワシらが追い払ったるからな」
「〜〜〜ッ…!」
少しは落ち着いたらしく、雅は今吉に抱き締められたまま泣き出してしまった。小さくしゃくりあげながら、その小さくて頼りない手は、しっかりと今吉のジャージの裾を掴んでいる。
「流石だな、今吉」
「とにかく、あの化けモンがどっか行った隙に体育館に戻らねぇと…」
「人体模型なら理科室に戻るんじゃねぇか?」
「そんな律儀な人体模型ならええけどな」
──ギィ…
「!」
「来ました…!」
「おいおい、なんかこの部屋の前で止まってやがんぞ…!」
ドアの窓は曇りガラスのため、ドアの目の前に立つ人体模型は確認できるが、人体模型からはドアから離れている青峰達の姿は確認できないようだ。
しかし、人体模型がドアを開けようとしているのは明らかだ。
「全員どっかに隠れろ…!」
諏佐の言葉に、今吉は雅と共に掃除用具入れに、他の4人は戸棚の一番下、鍋などが入っていたであろう大きなスペースに身を隠した。
人体模型が入って来るのが、音でわかる。
室内を、徘徊している。
「ッ……ッ……」
震える雅を抱きしめ、今吉も目を伏せた。目を合わせるのはあまり良くないと判断したからだ。
今吉自身、別に恐怖を感じない訳ではない。本音を言えば、訳のわからない状況に恐怖感を覚えている。
しかし、それ以上に、雅が殺されるかもしれないという事が、一番怖かった。
「…………大丈夫、大丈夫やで……」
足音が、離れていく。
ドアを閉め、足音は隣の理科室へと向かっているようだった。
「……行ったようやな」
「ビ、ビビった……」
「何なんでしょう、あれ…」
「人体模型だろ」
何はともあれ、体育館に戻るなら今しかない。
「戻るで。出る時は用心せぇ」
この後、雅を連れた桐皇は、無事に体育館へと戻れた。陽泉は既に戻って来ていて、再び話し合いが始まる。