連れてって
□04
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「雅っち!」
「雅さんッ…」
体育館に戻ると、陽泉は既に戻っていた。
いち早く雅の姿を捉えた黄瀬と黒子が駆け寄り、顔色の悪い雅に戸惑った。
「……桐皇も、何かあったんですね」
「も、ちゅー事は、陽泉サンもあったんやな」
赤司は静かに頷いた。
桐皇は話し合いの輪に加わるため、輪の一部に座った。陽泉の方は、化け物にあったというより、何か手掛かりを見つけたような雰囲気だ。恐怖の色は見えない。
「雅はどうしたのだよ。酷い顔色だ」
「何かあったんスか?」
「…あ?俺らも何が何だかわかんねーよ」
「人体模型が動くなんてベタすぎる展開やったしなぁ」
緑間が自分のジャージの上着を雅に掛けていた。黄瀬が「それ俺がやろうとしたやつッスー!」と騒いでいる。
「人体模型が動いたというのはどういうことですか」
「待て、テツヤ」
「! 赤司くん」
「順を追っていくには、まず雅の話から聞きたい。雅、話してくれるね」
「……」
雅は頷いた。
しかし、やはり思い出すのすら恐ろしいらしく、掛けられた緑間の上着を握り締め雅は俯く。
「…水が滴る音が聞こえて……どこかの教室で目が覚めたの…」
「雅さんを見つけたのは、3階でしたね…」
「場所の手掛かりがないか探して……壊れたオルガンの中から日記…みたいなの見つけて、」
そうだ、日記……
雅はポケットから紙切れを取り出した。咄嗟にポケットへ入れたからか、それには少しシワができていたが、読むのに支障はないようだ。
「見せてくれ」
赤司が雅の前に座り、その紙に手を伸ばした。
──バチッ!
「ッ!」
「えっ…?」
それは、日記が赤司を拒んだようにも見えた。その場にいた全員がわかる程の電流と音。それなのに、赤司も紙も何ともないのだ。
そして、赤司だけではない。
誰が触ろうとしても、紙切れはそれを拒んだ。
「紙って電気発するのか?」
「しねーから黙ってろダァホ」
「……雅にしか触れられない日記か…。それで、日記を見つけてどうした?」
「それで、……水だと思ってたものが落ちてきて…でもそれ、水じゃなくて、血…みたいで、」
最初に見た、あの少女のような顔が脳裏に甦った。
「ッ……」
「…それで、どうしたんだ」
「……おい赤司、もういいだろうが。思い出したくねぇこともあんだろ」
「、大輝、大丈夫、……たぶん」
雅の顔色が酷く悪いのは、その場にいた全員がわかっていた。もちろん赤司だって。無理はさせたくないが、何が起こるかわからない状況で、雅が知っていることは非常に重要なのだ。
雅もそれは重々理解しているから、小さく深呼吸をした。
「教室の…上を見たの……隅の方。そしたらそこに、女の子、みたいな…すごく、目が血走ってて、じっと…私を見てて……」
懸命に震えを抑えながら、その少女を思い出す。情報は、どんなに小さなことでも詳しい方がいい。
「体が動かなくて、女の子から目を離せなかった……。女の子は段々近づいてきて、女の子の息が感じられるくらいに近づいた時…すごく、冷たかった……女の子も少し震えてるようだった」
歯をガチガチ鳴らしていたのは、少女自身も寒かった、から…?
「女の子が口を開けた瞬間、滴が落ちてきて、なんとか教室の外に出て…………女の子は、教室から出れないみたいで…惜しそうな顔をして、ずっと私を見てた…」
「惜しそうな顔、というのは…」
「獲物を逃がした、みたいな……」
「獲物……」
「その後、動く人体模型に追いかけられて、」
「…そういえば、青峰さんが雅さんの声を聞いたって、あっ出刃ってスミマセン!」
桜井は、恐る恐る声を出した。
「ワシらには聞こえんかった」
「……大輝にしか聞こえなかった声か…。不思議なことばかりだ」
「その人体模型は、青峰くん達も見たんですよね?どうしていきなり雅さんの所へ?」
「そうだな。次は大輝達の話を聞こう」
話の照準が、青峰達へと向いた。
少し落ち着いてきた雅の頭を緑間が「よく頑張ったのだよ」と撫でていた。それを見た黄瀬は再び「それも俺がやろうとしたのにー!」と騒ぎ立てて、赤司に沈められた。