連れてって

□06
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「……ん」



暖かい。
頭を撫でられる感覚に、雅は目を覚ました。



「起きたか?」

「……」

「雅?」

「○△×□〜ッ!!!!??」



どうやら雅は今吉に寄り掛かって眠っていたらしい。目が覚めて、無意識に声のする方を見たものだから、目の前に今吉がいて相当驚いたようだ。

一瞬で顔を真っ赤にさせて後退る。



「見せつけるッスねー、このバカップル」

「んー?何や黄瀬、羨ましいんか?」

「そりゃ羨ましいッスよ!俺の雅っち盗られちゃいましたから」

「いつから黄瀬くんのになったんですか」

「バカも休み休み言うのだよ」

「そんなことより、探索行かないの?」



紫原が面倒そうに言い、探索チームが立ち上がった。


誠凛からは日向と木吉。
海常からは森山と黄瀬。
陽泉からは紫原。

紫原は体力もあるし反射神経、足の速さからも、雅を抱えて走る役割を与えられたらしい。本人は嫌がるどころか、「いざとなったら俺が雅ちんを抱えて走るからね」と嬉しそうに話していた。



「ワシが一緒に行ってやりたいんやけど、」

「今吉さん。雅が心配なのはわかりますが、決定事項です」

「……わかっとる」



このチーム編成に不満があるのは今吉みたいだ。自分が雅の側にいれないことが不満らしい。

しかし、体力有り余る紫原はともかく、今吉は最初の探索チームだったこともあり、休んだ方がいいという結論に至ったのだ。



「雅、ムリはせんといてな…」

「は、はい」

「雅ちんには俺がついてるから大丈夫だし。行こう、雅ちん」

「おい紫原!勝手に行くんじゃねーよダァホ!」



6人は体育館を出て、渡り廊下を進んでいく。
先頭は年長者である森山と、落ち着きのある木吉が歩く。安全な真ん中は雅とガードマン役の紫原だ。後ろは意外とビビりな日向と黄瀬がキョロキョロしながら歩いていた。



「君は俺が守るよ!何せ、こんな辺鄙な所で出会うなんて運命以外のなにものでもないからね!」

「何言ってんのー?雅ちんを守るのは俺なんだけど」

「それにしても、本当に古い建物だな」



木吉が、壁をペタペタと触り始めた。



「んな事してねーで進めよ木吉。動く人体模型が来たらどーすんだ」

「ああ。けど、ここなんか変じゃないか?」

「変?」



渡り廊下が途切れ、校舎に入ってすぐの壁。
2階や3階がどうなっているかはまだわからないが、階段の向こう側には教室があるのに、こちら側に何の部屋もないのは少し変だ。

それに、木吉は気づいたのだ。

一部分だけが、塗り固められたように他の壁と材質が違うのを。



「ほらココ。微妙に色が違うだろ?」

「言われてみればそうッスけど…」

「こんなん手じゃ剥がせねぇぞ」

「何か鋭利な物があればいいんだが、」

「鍵取るついでに探せばいいし」



早く行かないと人体模型に見つかっちゃうんじゃないのー?


紫原の発言に、そうだったと思い出した一同は、足を進めた。

陽泉が見つけたという鍵があるのはこの奥。1年1組というプレートが下がった教室だ。

中に入ると、埃を被った机が教室の隅に、乱雑に積み重なっていた。



「鍵は、」

「黒板消しの中だよ」



紫原が言う通り、鍵は黒板消しの中にあった。黄瀬が指先で触れようとするが、コツコツと見えない硝子のようなものに邪魔されて触れられない。



「きぃちゃん、私が」

「気をつけるんスよ」

「大丈、あ」

「案外簡単に取れたな」



鍵は、塗装が完全に剥がれて錆び付いていた。辛うじてぶら下がっていたキーホルダーには、僅かにしか見えないが“音楽室”と書かれている。

何故黒板消しの中にあったのかはわからないが、収穫はあった。



「他に使えそうなモンはねぇな」

「黄瀬、人体模型来てないか確認しろ」

「えーっ何で俺なんスか!」

「俺はほら、雅ちゃんを守らなきゃ」



グチグチと文句を言いながら、黄瀬は人体模型が通らないか確認し始めた。他は教室の中を探索し、武器になるものや別の手掛かりを探している。


今回の探索では何も起こらないだろう。


そう思っていた。



「今なら行けそ、ッ雅っち後ろ!!!」

「えっ」



黄瀬が振り返った瞬間に、雅の体は宙に浮いた。



「雅ちん!!」



紫原の声が、教室の空気を震わせた。
 

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