連れてって
□07
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「鍵とってくるだけなのに遅くね?」
「別の場所も探しているのかも知れないな。だから、落ち着いて下さい今吉さん。あと大輝も」
ソワソワ ソワソワ
この2人は、さっきからこの調子だ。
「いい加減目障りなのだよ」
「っせーな…」
「何かあったんやないのか。鍵取ったら戻る約束やろ」
そうだ。
雅の体調やメンタル面を考慮して、1つでもアイテムや情報を得られたら戻ると約束をしているのだ。それなのに、こんなに時間がかかるのだろうか。
森山や日向のように知り合って間もないのならともかく、同じ中学出身で彼女を慕う黄瀬と紫原が無理をさせるとは思えない。
「森山さんが雅さんを守ってうんだかあ大丈夫に決まってう!」
「いや、森山は一番最初に腰抜かすんじゃねぇか。つか早川うるせぇ!」
「2人ともうるさいわよ」
玲央は溜め息を吐いた。
その様子に違和感を感じた赤司は、玲央に問を投げ掛けた。
「何か考え込んでいるようだな」
「え?」
「何か関連する事でも思い出したんだろう」
「……流石征ちゃんね」
思い出しちゃったのよ。
玲央は言う。しかし、言うかどうかを迷っているようだった。赤司に促されたものの、今吉と青峰を見てはうーんと悩むだけだった。
「貴方達には、不快な話かもしれないの」
「ワシらには不快?」
「んだよそりゃ」
「嫌だったら耳塞いでもいいわ。話すから」
玲央は居住まいを正した。
それによって、全員が背筋を伸ばして話を聞く。
「雅ちゃん……何かに似てるって思ってずっと引っ掛かってたの」
「似てる、って……誰にですか」
「私が昔見た、新聞に載っていた女の子に」
それは、あまりにも残酷な事件だった。それなのに政府の陰謀か金持ち共の不正か、新聞の片隅に小さく記事と、また小さな写真がつけられただけだったという。
「あの雅って子が昔何かの事件に関わってたってこと?じゃあ今回は俺らが巻き添えかよ!」
「ざけんなよテメェ!姉貴は何の事件にも巻き込まれてねぇ!」
「落ち着け青峰!」
「もう、話が進まないじゃない!それに小太郎、私はその写真の女の子に似てるって言ってるだけでしょ」
事件が起きたのは、この学校のように森の奥地に建てられた学校だ。
「そこは大きなダムを作るのに、立ち退きを命じられていたわ。けど住民は大反対。反発が大きくなりすぎて、住民側はついに、敵対するある金持ちの1人娘を人質に取った。その女の子は小さい頃から体が弱くて、人質にされたあげく寒い納屋で生活させられていたから、死んでしまったのよ」
そして、その金持ちの男は殺人鬼と化した。
住民は皆、捉えられて1ヶ所に監禁された。そしてそのまま、ダムの底に沈めてしまおうとしたのだ。
その時ちょうど、子供達は学校に行った。
男はその学校に入り、立ち退きの前に価値のあるものを買い取りたいという名目で校内を散策した。
そして狙いを定めた。
「狙いは、黒い長髪で肌の白い女の子。それでいて大人しく、可愛らしい顔立ちの女の子達よ」
男はその女の子達を学校のどこかに監禁して、他の生徒は屑を丸めて捨てるように殺していった。助かったのは、既に立ち退きを受け入れていた住民の子供だけだ。
監禁された女の子達はというと、
「身体のパーツを奪って、それを1つの人間にした」
「なるほど。死んだ娘を作ろうとしたのか」
「そうよ。その男は変な宗教に被れていて、本気で蘇らせられるって信じてたみたい」
そして、その金持ちの男の娘が、雅にそっくりらしい。
「じゃあ、雅さんがここにいたのは、」
「奪われた身体のパーツを、取り戻そうとしているのかもしれないわ」
「しかし、この学校がその事件が起きた場所とは限らないのだよ」
「いやー、これもう確定っしょ。現に、人体模型が心臓求めてさ迷ってんじゃん?」
「人体模型は本来動きませんが」
「人体模型に関しては謎が多いな。もともと材質は木やプラスチックだが、動くということは思念があるということだ」
それもこれも、彼女にしか触れない、この日記に手掛かりがあるはずだ。
「もしそれが本当なら、雅はマジでヤバいかもしんねーぞ…」
「止めぇや若松。余計心配になるやろ」
「けど今吉さん、」
───ガタガタッ
「!!」
突然の物音、否、扉の開く音に、全員が振り向いた。
「姉貴!」
「だ、だぃ…だいき、」
そこにいたのは、息を切らした5人と、首に赤黒い痕を残した雅だった。青峰が駆け寄って雅を支えるが、雅は立っていられない程震えていて、尋常ではない空気が漂う。
人体模型の時よりも酷い状態に、玲央の話が本当にこの学校の話だという真実味が増していくばかりだった。