連れてって

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「雅ちん!!」



紫原の怒声に近い声が響いた。



「う"ッ…ぐ、ぁ……!」



宙に浮いた、浮かされた身体は既に、意識を失いかけた状態の雅では動かせなくなっていた。背後から伸びた長い手が、雅の首に絡んで締め上げている。

その手を追っていくと、下半身のない少女が天井にくっついていた。



「雅っちを離せ化け物ぉ!」



攻撃しようにも、もしかしたら雅に当たってしまうかもしれない。否、そもそも攻撃できるものなんて何もない。

絶体絶命だ。



「化け物がなんぼのもんじゃー!」



──バキッ!



「ちょっ日向!雅ちゃんに当たるだろう!女の子の肌に傷でもついたらどうする!」

「死ぬよりマシだろーが!」

「それもそうだな!」



椅子を少女本体に投げつけたのは日向だ。腐った木の椅子は簡単に砕けて下に散らばってしまった。しかし、これ以上攻撃の手段はない。



「ダメだ!全然効いてない!」

「捻り潰してやる」

「あ、おい紫原!」



紫原は、折れた椅子の足を掴んで絡み付く手へと突き刺した。何度も何度も。



<ヒギッ>



化け物は、痛いとでも言わんばかりの声を上げて雅を離した。その隙に木吉が雅を抱え、既に気を失っている雅の呼吸を確認する。



「大丈夫だ」

「……こっちは大丈夫じゃないみたいッスよ」

「怒り浸透だな…」



化け物は、“獲物”を奪われたことに怒り狂っている。頭や喉を掻きむしり、声にならない悲鳴のようなものをあげていた。



「早くここから出よ、ッ!」

「人体模型…!」



ご丁寧に教室の前で待っていたらしい人体模型は、曲がらない足を交互に出して近付いてくる。人体模型が足をつく度に、ギシギシと軋む音が響いた。



「みんな!こっちから出よう!」



人体模型がいない方のドアを開け、体育館へと走りたいがそれは叶わなかった。



「廊下移動すんの、人体模型だけじゃねーのかよ…」



体育館へと繋がる渡り廊下は、中央階段を過ぎた向こう側。しかし、今中央階段の前には、人の形をした何かが立っていた。

一糸纏わぬその少女は、鳩尾から下腹部にかけて一直線に裂けて、器具で開かれた体内はあるべきものがない。



<返 シ テ>



「何、を…」

「! 雅ちん、大丈夫?」

「ん…」



<返 シ テ … ワ タ シ ノ>



「何、何を返して欲しいの、」

「何か言ってんのか、アイツ…」

「返してって、」



<返 シ テ …… 返 シ テ …… カ エ セ >



少女が、地面を蹴った。



「逃げっ……なッ!?」



それは、森山の足下に転がった。



「じっじじ人体模型の頭ァ!」



頭の持ち主は、日向達の目の前で少女にのし掛かられていた。



< 私 ノ …… 私 ノ >



グチュ グチュ

ヌチャヌチャ


少女は人体模型の体内を漁り、その臓器を鷲掴みにして貪っている。しかし、臓器のかい少女の腹が満たされる訳もなく、ビチャビチャと噛み砕かれた肉片が床に溢れるだけだった。



「この隙に逃げよう!」

「ッ……」

「森山先輩も早く!」

「お、おおっおうっ!」



少女の横を通り、木吉達は体育館へと走った。

紫原に抱えられた雅は、紫原の肩越しに後ろを振り返った。本当は見たくなかったのに、何故か見てしまう。

少女も、逃げる木吉達を見ていた。その口元は赤く染まり、口角は上がっている。そして、妙に白い歯を見せて口を開いた。



< ── 、 ──── >
 

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