連れてって
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「姉貴!」
戻ってきた探索チームは崩れるように膝をつくと、酸素を目一杯取り込んだ。
「……大輝、」
「姉貴、ッ…! 姉貴ッその首…!」
雅を支える青峰は、その細い首に赤黒い跡を見てしまった。それは明らかに転んでできたようなものではなく、人の手で強く締め付けられたような形だ。
震えて言葉を発す事のできない雅の代わりに、黄瀬が口を開いた。
「もう本当にヤバかったんスよ!下半身のない女の子が突然現れて雅っちのこと襲うし、人体模型が現れるし!しかも、また別の化け物が出たんス!」
“別の化け物”
その言葉に、全員が反応した。
黄瀬達が輪に加わり、あれこれ説明を始める。その間、青峰と今吉は、雅が落ち着くまで隅で様子を見ていた。
「……人体模型の臓器を食べる、臓器を持たない少女か…」
「ありゃ人体模型だけじゃなくて俺らも食われるとこだったぜ…」
「そーいや、雅ちんが化け物の声聞いたみだいだけど。返せとかなんとか。逆に帰せって感じだし」
「……やはりそうか」
玲央の話が全員の脳裏を過った。
「やはりって……それ、どういう事ッスか、赤司っち…」
「玲央がある事件を思いだしたんだ。今ここで起こっている事や、何故雅が集中的に狙われるのか、確証に近付いたよ」
「近付いたんじゃなくて確実にそうだろーが。もう姉貴は体育館から出さねぇからな」
「何の話かわかんねぇよ。俺らにもわかるよう話せ!」
「落ち着けよ日向」
玲央が探索チームに説明している間に、赤司は雅の前に膝をついた。そして、その首の痕に触れて顔を歪めた。
それが、危険だとわかっていて外に出した事への罪悪感なのか、外の状況があまり良くないことへの危惧なのかはわからない。
しかし赤司は、お疲れ様と優しく雅の頭を撫でた。
「赤司、わかってんだろーな。外の奴らは確実に姉貴を殺す気なんだぞ。もう外には」
「出てもらわなきゃ困る」
「ッテメェ…!!」
「止めぇ青峰。赤司の言う通りや」
「なッ…今吉サン、自分で何言ってんのかわかってんのかよ!姉貴のこと大切じゃねーのか!?」
「大輝、」
冷たい雅の手が、青峰の頭を撫でた。いつだって、青峰は雅に頭を撫でられると大人しくなる。
「私は大丈夫だよ」
「けどッ…!」
「なんか、慣れてきたみたい……この状況に」
雅は、鍵を取り出した。先程の教室でとった鍵だ。それを赤司の目の前に出した瞬間、“音楽室”と書かれたそのプレートの隙間から、メモのような紙が落ちる。
「あれ、」
それを拾い上げ、広げる。
2枚重ねになっているようだ。
「日記、それも2枚」
「何て書いてあるん?」
No.5
20××年 ×月×日
順番が、順番が回ってくる。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない
No.6
20××年 ×月×日
コ ロ シ テ ヤ ル
「……最後のは、死ぬ瞬間か…殺された後のものか…」
「血文字…」
「ダイイングメッセージ言う奴やな」
「順番って…」
「…殺される順番か」
─ 私 ノ 、 シ ン ゾ ウ ─
「……そういう事だったんだ…」
「姉貴…?」
「あの女の子は、心臓を盗られたんだ。他の臓器は人体模型の中に詰め込まれた。だから人体模型は足りない心臓を求めて、女の子は全て取り戻そうとしたんだと思う」
「なるほど…」
「それに、ね…言ってたの。私の心臓、って。あれ、人体模型も言ってた。きっと、他の臓器は食べることで取り込んだと思ってるんじゃないかな」
少しずつ、着実に真実に近づいている。
しかし、危険へも近づいている。
そんな危険に、弱い女の子がさらされているのに、何もできないことに誰もが悔しさが込み上げていた。