とうおうらいふ!
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「アカン、アカンわ諏佐」
「は?」
桐皇学園2年、今吉翔一は頭を抱えていた。突然の発言に、友人である諏佐佳典は目を丸くするしかない。
胡散臭い笑みを張り付け何事もそつなくこなすこの男に、悩みなどあるのか。
そう思ったようだ。
「珍しいな、悩み事か?」
「ほんまヤバいねん」
「どうしたんだよ。手出した女が妊娠したか」
「そないヘマせんわ。そうやなくて、」
──好きな子できてん
その言葉に、諏佐がどれだけ驚いたことか。
なぜならこの今吉という男、来る者拒まず去る者追わずな性格なため次から次へと女を変えている。諏佐も、今吉がどれだけの女と関係を持ったか数えきれない程だ。
そんな今吉が、特定の女子を好きになるとは夢にも思うまい。
おかげで読みかけの本が落ちてしまった。当然栞など挟んでいないので、ページを探すのが大変そうだ。
「…………何だって……?」
「せやから、好きな子できてん」
「……」
「とりあえず今までの女と関係切ったんやけど、この先どないしたらええ?」
そんなこと俺が知るか。
そう言ってやりたい本音を隠し、本を拾い上げる。今まで散々遊んどいて、いざ本命ができたらどうしたらいいかわからない。そんな漫画みたいな展開、ついていけない。
しかし本気で悩んでいるような友人を放っておける程、諏佐は冷酷ではなかった。
「どんな子なんだ?」
「むっちゃくちゃ可愛い」
「……そんだけ!?」
「まさか。ちいちゃくて、元気で、髪が長くて、」
「あーわかった。長くなりそうだからもういい」
「まだあんねんけど」
「そいつの名前とか、クラスとかわかんないのか?」
「ああ、それなら……」
「1年の藍月雅?」
「お前も1年だし、名前くらい聞いたことあるだろ?」
「聞くもなにも、同じクラスっすよ」
「ほんまか」
「つーか席も隣ですし。アイツがどうしたんすか?」
「いや、結構話聞くからどんな子かと、」
部活時、諏佐が1年の若松孝輔に声をかけた。
とりあえず今吉が知っている限りの情報、と言っても学年と名前と部活しかわからなかったが、どうやら若松は件の女生徒と面識があるらしい。
若松に問われて咄嗟に言い訳する今吉の焦り具合のなんと珍しいことか。
若松には気付かれていないようだが、諏佐ははっきりとそれを感じ取っていた。
「確か、あの“キセキの世代”の青峰大輝の親戚らしいんスよ。つか、超頭いいし誰にでも優しいできた奴ッス。まあ俺とは馬合わないけど」
「“キセキの世代”って、あの?」
「はい。この前、青峰大輝が学校までアイツを迎えに来たの見たッスよ」
「へェ、是非会ってみたいな」
「……せやな」
今吉から名前を聞いたときからまさかと思っていたが、本当に“キセキの世代”の血縁者とは……
まあ、何の特徴もない女子より、話すきっかけは作りやすい。なんという幸いだろう。
「そろそろ練習するぞ。監督が見てる」
「うっす」
「……」
先を歩く諏佐と若松に、今吉も続いた。