とうおうらいふ!
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まったく接点が無い雅に、会うことも叶わずに1週間が過ぎた。部からの情報も、携帯という便利なものがあるがために、1年の教室まで行くこともない。
これは、本気で呼び出さなくてはいけない状況なのではという考えまで出てきた。
「無理や」
「あのな、」
「呼び出していきなり告るなんてできる訳ないやろ」
一目見たときから好きでした。
なんて、ありきたりな台詞じゃ彼女は落とせない。雅に惚れた男の1人、なんてモブじゃ嫌だ。
「難しいもんだな。…………おっ」
「どしたん諏、……あ」
噂をすればなんとやら。
体育館の入り口に、件の彼女がいた。誰かを探しているのか、中を見渡している。そんな彼女をじっと見たまま固まっている今吉の肩を叩き、諏佐は彼女を指差した。
「チャンスだろ、行けよ」
「お、おお、せやな」
今吉は、人を探しているらしい彼女に声をかけた。
「そこの君、誰か探しとるんか?」
「あ、えっと、原澤先生を、」
「監督か。ちょいと待っとってな」
「ありがとうございます」
今吉はすぐに原澤を呼び、諏佐の元に戻った。
「監督に用事だったのか」
「会話したで。会話してしもたで諏佐」
「わかってっけど。名前聞いたか?」
「えっ」
「えっ」
「名前知っとるし」
「そりゃお前はな!?けど、自分が知らない野郎に名前知られてるって気持ち悪ぃだろ」
「えっ」
「えっ」
「せやったんか……雅のこと知らん奴なんかおらへんから普通やと思とった」
「お前、マジで初恋なんだな……そんな今吉初めて見たぞ」
彼女に視線を戻すと、原澤と何か話しているようだ。そして、何か指示を出していた。原澤は体育館を出ていき、彼女は再びキョロキョロし始めた。
そして、体育館の奥の方に1人の生徒を見つけ、そこへ走っていく。その生徒はスポドリを飲んでいたようで、彼女が持っていた大きめの茶封筒で背中を叩かれて吹き出した。
そして、その2人の声が体育館に響き渡る。
「テメェいきなり何すんだ!」
「うっさい!アンタがさっさと部活行くから私が呼び出されたの。土下座して謝れ」
「つか何だよこれ」
「この前の小テストとアンタがこなす課題に決まってんでしょ。あんだけ教えたのに何で30点なの?せめて60点でしょ?アンタの脳ミソはバスケットボールでできてんの?」
何ともおかしな光景だ。
自分の想い人が後輩と喧嘩して、周りは顔を赤らめながら彼女を見ている。華奢な体、美しい容姿、少し癖のある猫っ毛、スカートから伸びる綺麗な足とそのニーハイによる絶対領域。
誰もが見惚れる彼女が、今この、男ばかりでむさ苦しい空間に花を咲かせているようだ。
「若松、お前テスト30点だったのかよ。何のテストだ?」
「す、諏佐さん…………古文ッスけど…」
「まあ一桁じゃないだけマシか。その課題、ちゃんとやれよ」
「う、」
「つか、わざわざ届けてもらったんだから礼くらい言えよ。なぁ今吉」
「!? あ、ああ、せやなぁ」
まさか自分にふられるとは思っていなかった今吉は、内心本気でビビった。得意のポーカーフェイスで周りにはバレていないだろうが、チラリと彼女を見たら目があった。
「あっ、さっきはありがとうございましたっ」
「おお、監督に何の用やったん?なんや出てってしもたけど」
「担任の先生が、補講で1週間若松は部活に遅れますっていう事を原澤先生に伝えたかったそうです」
「補講…!?」
聞いてねーぞと反論するが、そりゃそうだ。何せ、担任は言おうとしていたのに若松は帰りのHRが終わり次第さっさと教室から出ていってしまったのだから。
他の生徒がいる前で補講の事を言うのは可哀想だという先生の気遣いが裏目に出たようだ。
「勉強しなくても良い点取れる雅とは頭の作りが違えんだよ」
「雅って言うのか。よろしく。俺は諏佐佳典だ」
「よろしくお願いしますー」
「んで、こっちが今吉翔一」
「よろしゅうな。若松に何かされたらワシらに言うてええよ。バッチリシメとくから」
「頼もしいですね!」
「おい!つか諏佐さんも今吉さんも、からかわないで下さい!」
話ながら、諏佐は思っていた。
これなら今吉が惚れるはずだ、と。
何故なら、この雅という少女は、今まで見てきた女子とはまるで違うからだ。ハッキリしてて、媚びなくて、何より笑顔が何とも可愛らしい。
サバサバしていて媚びない女子は他にもいる。しかしそれは演技であったり、ただ他に本命がいることが多い。
だが雅は、程よい距離感での会話をしていた。砕けた敬語には軽さはなく、しっかり今吉達を先輩として見ている。
「雅は若松に勉強教えてやっとるんか〜。頭ええんやな」
「そんなことないですよ! 中学の時は部活ばかりで勉強を疎かにしていたので、高校では勉強をしっかりしようかと思っただけです」
「あ?お前中学ん時部活入ってたのかよ」
「入ってたけど。帰宅部だと思ってた訳?」
「何の部活入ってたんだ?」
諏佐の質問に、雅は困ったように笑った。そして口を開く。
「バスケ部です」