とうおうらいふ!
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「アンタさ、調子のってんじゃねーよ」
(いきなりかー)
雅は、同じ学年の気弱そうな女子と、先輩であろうケバい先輩に呼び出されていた。気弱そうな女子は泣きながらセンパイにくっついていたが、残念ながら雅とその子には接点がない上に何かした記憶もない。
何が何だかんだわからないまま、誰もいない放課後の教室に呼び出され、冒頭に戻る。
「私が何か」
「アンタ、最近若松と仲良いみたいじゃん」
「は」
「席が隣だからか知らないけど、邪魔だからどっか行ってくんない?」
「え」
どこか行けと言われても、席替えのクジでそうなっただけだ。それに、仲が良いとは心外だ。顔を合わせりゃ喧嘩ばかりの日常を見て、何をどうすれば仲良しに見えるのか。
うんざりしたように雅は溜め息を吐いた。
「席替えのことについては、提案した先生と生徒それぞれのくじ運に文句言って下さい」
「だからさぁ、この学校辞めろつってんの。わかんない?」
「んな無茶な」
「この子は、入学する前から若松のこと好きだったの。それを横からしゃしゃり出て、アバズレも大概にしろよ」
(話しただけでアバズレか)
そこまで言われてアーハイそうですかスミマセンと謝る義理はない。
「センパイは色んな男子をつまみ食いしてるようですが……それはアバズレとは言わないんですかね」
「…は!?」
「知ってますよーセンパイのこと。ヤりすぎでガバガバだって男子が噂してますから」
「ッ……んのガキ…!」
「その隠れてる子は同じクラスだから知ってるけど。若松のこと好きなら告白すりゃいーじゃん。それを人の背中に隠れてうじうじ……」
そんなんだから、若松に相手にもされないんだよ。
「ざけんなよビッチが!!」
パキッと、足から嫌な音がした。
「い"ッ…!!」
先輩に足を踏みつけられた。その表紙に親指の爪が割れ、指に食い込んだらしい。みるみるうちに上靴の外側にまで赤い色が染み渡ってきた。
「若松と話したら、次は手の爪全部剥がしてやるかんな」
先輩とクラスメイトが出て行って、雅は痛みを堪えながらも保健室へと向かった。廊下に血の足跡をつける訳にいかないため、片足だけでなんとか進むが、やはりたどり着くには難があるようだ。
目の前の階段を上がらなければ、保健室には辿り着けない。
(こんな時に限って救急箱忘れたからなぁ…)
よし、上ろう。
そう決意した時だ。
「雅?」
「わ!?」
声をかけられて、バランスを崩すところだった。
「あっ……えっと、い、今吉先輩…!」
「何しとるん片足で」
「え、あ、いや…」
「……何やそれ、血ぃ出とるやん」
しゃーない奴っちゃなぁ。
微笑みながら、今吉は雅を抱き上げた。
「うぇえ!?ちょ、先輩私重いですし!てゆーか部活中じゃ!?」
「重いとか、それ本気で言うとんの?軽すぎやでもっと食べんと。部活は今日休みやから図書室で勉強しとってん。安心しぃ」
そう言えば、彼は制服のままだ。細身な身体つきかと思いきや、やはり運動部なだけあって案外逞しい。女子を軽々と抱き上げて、あっという間に保健室へついてしまった。
そして、タイミング悪く校医はいなかった。
「あ、ありがとうございます…」
「んで?どないしたん、その足」
容赦なく聞いてくる今吉に、雅は戸惑った。“若松と話したから踏まれした”なんて支離滅裂な話、わざわざよく知らない先輩に言うことでもない。しかし、ここまで運んでくれた人に誤魔化すというのも気が引けた。
当たり障りなく、
「誤解からきたトラブルです」
とだけ答えておいた。
「ほら、足見せぇ」
「……えっ?」
「早よ消毒せんと、バイ菌が入るで」
「う、わっ…!」
ベッドに座った雅の前で胡座をかき、あろうことか今吉は雅から靴と靴下を脱がせて患部を見ていた。
あちゃー、こりゃ痛そうやわぁ。
なんて言いながらガーゼと消毒液を手に取るものだから、思わず足を引っ込めようとした。しかし、それは意図も簡単に防がれた。
「……本当に申し訳ないです。先輩に手当てしてもらうなんて、」
「何言うとるん。ケガしとる女の子放っておける程非道やないで」
「わー優しー」
「棒読み」
「だって今吉先輩って、腹黒そうですし」
「正直な子やなぁ」
「若松情報です」
「おし、若松は明日シメとくわ」
軽口を叩きながらも、手当てを終えた。
しかし、この上靴は使えないだろう。中は真っ赤に染まり、外側も少し染み込んできている。
「歩けそうか?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「気ぃつけて帰れよ」
「はーい」
今吉は、少し足を引きずるように帰る雅を、心配そうに見送った。
─次は手の爪全部剥がしてやるかんな─
まさか、あんな因縁つけられてるところに出会してしまうとは思わなかった。
初めて話した時も、別に誰かに嫌われるような子だという印象はなかった。好きな相手だからかもしれないが。
「ま、ワシがそんなことさせへんけどなぁ」
彼女を傷つけるものは許さない。
だって、大好きだから。
─ありがとうございます─
あの可愛らしい笑顔が、曇るところなんか見たくない。