とうおうらいふ!
□5.5
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「え、」
(何やのコレ、可愛い……)
「ぶふぅっ!」
「何笑ってんの若松」
「くっくくくっ…だ、だってよ、ひひひ、何でもできる藍月サンが泳げないとはなぁ、」
「うざい!!」
「うおってめ!蹴るんじゃねーよ!」
ゲシゲシと若松の脛を蹴りまくる雅。思わず後ずさる若松だったが、引いた足の着地地点はない。
なぜならそこは、
「うおおおッ!!?」
「うわッ!?」
水面だからだ。
水面に立てる人間などいるわけもなく、咄嗟に雅の腕を掴んだ若松はプールの中へ。そして、190pを超す巨体を支えることなどできないため、雅もプールの中へ。
「ビビった!」
「ビビったじゃねーよ!雅上がって来ねーんだけど!?」
「えっ」
「アホか若松!自分1人で落ちぃや!」
「今吉さん!」
どうやら、雅は今吉に救助されていたらしい。今吉で肩まで浸かってしまう深さのプールは雅では立てず、雅は今吉に支えられて浮いていた。
「大丈夫か?」
「あ、ありがとうこまざいます……」
何とかプールサイドへと上がった雅だが、パーカーごとびしょ濡れで髪も乱れている。
(((エロい…)))
「……パーカーもぐっしょりやな」
「暖かい温水プールで良かったです…」
パーカーを脱いで絞ってはみたが、今日はもう渇きそうにない。諦めてパーカーを脱いだままでいることにし、室内ロッカーにパーカーを入れておいた。
「まあ、せっかくだから精一杯遊ぶか」
「せやな」
「諏佐さん、50m勝負の約束忘れてませんよね!」
「忘れてねーよ」
それからは、諏佐と若松が50m勝負を初めてしまったため今吉と雅が2人で遊んでたり、今吉が雅に泳ぎ方を教えていたり、今吉が飲み物を買っている間に雅がナンパされていていたりと賑やかな時間を過ごした。
そしてその帰り──
「ええ!?お前なんっつー格好してんだよ!」
「え?」
一緒に帰ることになって雅を待っていれば、あろうことか雅はタンクトップにショートパンツという格好で出てきたのだ。年頃の青年には膳を据えられているような状態だ。
「襲ってくれつってるようなもんじゃねーか!」
「何、あんた私のことそう言う目で見てるわけ?仕方ないじゃん、あんたにプールん中引きずり込まれたせいでパーカー濡れたの」
「うぐっ…」
責任が自分にあるため何も言い返せない若松。
雅は何も気にしていないようで、そのまま帰ろうとしている。
「今日はこれ着て行きぃや」
「わっ…」
ぱさりと雅の頭を覆ったのは、先程まで今吉が着ていたパーカーだった。黒に近いグレーのそれは、やはり雅には大きく、さらに色っぽい雰囲気が増した。
「さっきの格好で帰るよりマシやろ」
「私は大丈夫ですって!それに、今吉先輩が風邪引いてしまいます!」
「ワシは中もTシャツやし、何より男やからな。けど、お前は女なんやで?ワシらがおるからまだ良いが、そういう危機感は持たんとな」
「う、」
今吉に諭され、雅は大人しくパーカーを借りることにした。
「本当に申し訳ないです…」
「何言うとん。悪いんはか弱い女の子を巻き添えにダイブした奴やろ」
「今吉さん、物凄く心に突き刺さります…」
「今吉、あんまり後輩をいじめてやるな」
楽しい時間はこれまでだ。
明日からはまた地獄の練習が始まる。
けどそんなこと、誰1人考えていなかった。考えるだけ無駄だから。
どうせ明日は待たなくても来るのだから、今この時を楽しんだ。