とうおうらいふ!
□06
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プールに行ってから3日が経った頃のことだった。
「あ、あの、」
紙袋を持った女子が、ある教室の前で戸惑っていた。
「可愛ーね、1年?このあと授業サボって俺と保健室で休まない?」
「遠慮しときます。今吉先輩はいらっしゃいますか?」
キッパリ断った女子に、男は「ちぇっ、今吉狙いかよ」と口を尖らせ教室を見回した。そして相手を見つけると、名指しされた本人を呼ぶ。
「おーい、今吉ー。可愛い女の子のお呼びだぜ」
「は?可愛い女の子?」
「おー。君、名前は?」
「藍月雅です」
「ん。雅ちゃんだって」
「!」
それまで面倒そうに頬杖していた今吉が目を見開き、教室の出口へと向かった。自分を呼んだ男は既に別の女をナンパしに行っていて、その場には今吉と雅しかいない。
「どしたん?」
「この前お借りしたパーカーを、」
「パーカー……ああ、プールん時のか」
「本当にありがとうございます」
綺麗に折り畳まれたパーカーが入ってる紙袋を渡され、今吉は顔が綻ぶのを感じた。
この子は本当に、律儀で、礼儀正しくて、なんて可愛らしいんだろう。
「……にしても、よう2年の教室まで来たな」
「スミマセン…なかなかお返しするタイミングが掴めなくて……」
「そんなん気にせんでええよ」
「あの、1年が来るのってそんなに珍しいんですか?なんかすっごい見られました」
珍しいのもあるけど、一番の理由は雅が可愛いからだ…!
思わず今吉は雅の頭を撫でてしまった。
「お?雅じゃねーか」
「あ、諏佐先輩」
「お帰り。もう進路指導終わったん?」
「おう。このまま頑張れだとさ。それで、どうしたんだ?」
諏佐は、進路指導で使ったのであろうプリントが入ったクリアファイルで肩を叩いている。そんな諏佐に今吉が説明をし、納得したように「ああ」と呟くと、雅の頭を撫でた。
なぜ2人とも私の頭を撫でるんだろう。
そう疑問に思った雅だが、チャイムが鳴ったことで口に出すことはできなかった。
「あっ次移動教室…!今吉先輩、本当にありがとうございました!」
「おー、気ぃつけて帰れよー」
「って言ってるそばから転んだぞ」
「よう転ぶな、あの子」
慌てて走っていく可愛い後輩の姿を、微笑ましく見送る先輩2人だった。